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「俺、水乃に告白した」
カーテンの向こうから。
慎の声が聞こえる。
「本気だから。誰にも渡したくない」
「…………」
保健室に急に慎と真澄が入ってきて。
俺は咄嗟に水乃の手を掴んで、カーテンの向こうのベッドに身を隠した。
すぐ目の前には。
顔を真っ赤にした水乃がいる。
俺と目を合わせようともしない。
掴んだ手を離そうと、何度も小さく動かしてる。
……離せるわけねぇだろ。
さっきまで。
慎のところに行きたいみたいなこと言ってたくせに。
「それ、本気?」
あ。
「水乃、まだ早手のこと好きなんじゃねーの?」
「…………」
水乃の指先が。
ピクッと動いた。
俺も。
息が止まりそうになる。
「分かってるよ」
慎は。
少しも迷わなかった。
「水乃がまだ早手のこと好きなのも、分かってる」
「じゃあ、お前――」
「でも、もう別れてるだろ」
ドクン――。
分かってる。
そんなこと。
俺だって。
さっき水乃に言ったばっかだ。
別れたことは分かってる。
それでも諦められないって。
「だからって、水乃がすぐ俺のこと好きになるなんて思ってねーよ」
慎の声が。
カーテン1枚向こうから聞こえてくる。
「ただ、俺にも可能性はあると思ってる」
「…………」
なんだよ。
それ。
「前はさ、無理だと思ってたんだよ」
「何が?」
「早手には敵わないって」
「…………」
「10年くらいずっと一緒にいて、付き合う前からあの2人だけ特別だったし」
慎が。
淡々と話してる。
「だから俺も、ずっと我慢してた」
「…………」
「でも今は違う」
ドクン――。
「最近、水乃が俺のこと頼ってくれるようになった」
目の前の水乃が。
また俺から目を逸らした。
……やめろ。
そんな顔すんな。
「一緒に学校行ったり、帰ったり。今日だって一緒に文化祭回ったし」
分かってる。
全部見てた。
見たくなくても。
ずっと目に入ってた。
「俺といる時、ちゃんと笑ってくれるようになった」
「…………」
胸の奥が。
ぐちゃぐちゃになっていく。
「だから今なら……俺が水乃のそばにいてもいいのかなって思ってる」
慎。
それ以上。
言うな。
「守りたいんだよ」
ドクン――。
「水乃が辛い時、一番に支えてやりたい」
「…………」
掴んでる水乃の手が。
震えてる。
いや。
違う。
震えてんのは。
俺の方だ。
「水乃が好きなんだ」
胸が。
痛い。
今まで感じたことないくらい。
息が詰まりそうになる。
ずっと。
俺の隣にいたやつ。
俺が守るって。
ガキの頃からずっと思ってたやつ。
そいつを。
慎が本気で連れていこうとしてる。
「俺は水乃の笑顔、守りたいんだ」
「…………」
誰が。
お前なんかに渡すかよ。
今すぐ。
ここから連れていきたい。
慎の声なんか。
聞こえないところまで。
俺のそばに。
ずっと置いておきたい。
「水乃、最近さ」
まだ。
慎の声が続く。
「ほんと俺に頼ってくれるようになったんだよ」
「…………」
「ちょっとの進歩だけど、それだけでも嬉しいし」
慎が。
少し笑ったのが分かった。
「余計、離したくなくなった」
「…………っ」
目の前の水乃の目から。
涙が落ちた。
なんで。
泣くんだよ。
慎の話聞いて。
なんでお前が泣くんだよ。
「すぐ俺のこと好きになってくれなくてもいい」
「…………」
「でも、俺はもう誰にも渡す気ないけどね」
ドクン――。
その瞬間。
俺の中で、何かが切れた。
……お前がその気なら。
もう。
俺だって我慢しねぇ。
グイッ――。
「……っ!?」
掴んでいた手を引く。
水乃の身体が、俺の方へ近づいた。
驚いた顔。
濡れた目。
近い距離で。
水乃が俺を見る。
「…………」
今すぐ。
こいつを俺の方だけ向かせたい。
慎のことなんか。
考えられなくなるくらい。
そんな衝動のまま。
水乃との距離を詰める。
「……早手……?」
その声で。
ギリギリのところで止まった。
水乃の頬には。
まだ涙が残ってる。
「…………っ」
違う。
こんなんじゃねぇ。
無理やりこいつを俺の方に向かせたいんじゃない。
俺が欲しいのは。
水乃が自分から、もう一回俺を選ぶことだ。
「……クソ」
小さく吐き出して。
額を水乃の肩に押しつける。
「……マジで、無理」
慎の声を聞いてるだけで。
頭がおかしくなりそうになる。
それでも。
水乃が嫌がることだけはしたくない。
だから。
震える手で、水乃の手だけを握った。
「……絶対、渡さねぇから」
慎にも。
誰にも。
もう。
黙って見てるだけなんてやめる。
