「水乃、いるかー?」
慎の声が。
保健室の中に響く。
「……あれ? いねーじゃん?」
「…………っ!」
どうしよう……!
本当に慎だ……!
そう思った、その時。
「誰もいねーじゃんな」
もうひとつ。
聞き慣れた声がした。
え……。
真澄まで!?
「もう、真澄が水乃は保健室にいるって言うから、俺飛んできたのによー!」
慎の声が。
どんどん近づいてくる。
「てか真澄、お前一緒に来なくてもよかったんだぞ?」
「は?」
「お前も水乃、心配だったの?」
トクン……。
慎……。
私のこと心配して、来てくれたんだ。
「帰ったんじゃねーの?」
真澄の声がする。
「てか俺だって、さっき火傷して保健室来たんだけど。そっちは心配してくれる?」
「お前は元気そうじゃん」
「ひでーな」
いつもみたいな。
慎と真澄のやり取り。
だけど。
今の私には笑って聞いていられない。
「水乃、ここにいると思ったんだけどな……」
カタン――。
「…………っ!」
近い。
慎と真澄が、すぐそこにいる……。
このままじゃ。
早手と一緒にいるところを見られる……!
そう思った瞬間。
早手に手を掴まれた。
「え――」
声を出す暇もなく。
そのままカーテンの向こうへ引かれる。
ベッドが小さく軋んで。
私も早手も、咄嗟に身を隠した。
「…………っ」
近い……。
狭いベッドの上。
すぐ目の前に早手がいる。
こんなところ。
慎に見つかったら……。
「水乃、大丈夫かな……」
カーテンの向こうから。
慎の声が聞こえる。
「さっきも様子変だったし……」
「…………」
「なんか、息荒かったんだよ」
トクン……。
「やっぱ、そばにいないと心配になるな……」
慎の声が。
少しだけ不安そうになる。
胸が痛くなった。
慎……。
本当に私のこと心配してくれてるんだ。
何度。
慎の優しさに助けられたんだろう。
それなのに私は。
今、早手と一緒にここに隠れてる。
「……そんな心配なら、連絡すれば?」
「したよ。さっきまで電話してた」
ドクン――。
早手に掴まれている手が。
わずかに強く握られた。
「じゃあ大丈夫なんじゃね?」
「んー……でも、途中で急に切れたんだよな」
「切れた?」
「うん。なんか変だった」
「…………っ」
まずい。
それ以上言わないで……。
「まあ、あとでもう1回連絡するけど」
慎は。
何も知らない。
あの電話を切ったのが。
私じゃなくて早手だったことも。
今、その早手と。
カーテン1枚隔てた場所に隠れてることも。
「……ほんと水乃のこと好きだな、お前」
真澄が。
呆れたみたいに笑う。
「うん」
慎は。
迷いもしなかった。
「好きだよ」
「…………っ」
トクン――。
「だから心配なんだって」
その言葉と同時に。
早手に掴まれていた手が、また少し強く握られた。
「…………」
怖くて。
早手の顔が見られない。
慎……。
私、ここにいるよ……。
そう言えばいいだけなのに。
声が出ない。
早手から離れようと。
掴まれている手をそっと引いてみる。
だけど。
早手は離してくれない。
カーテンの向こうには慎。
すぐそばには早手。
早手が今。
どんな顔をしてるのか。
怖くて。
やっぱり、見られなかった。
