慎と一緒に教室へ戻る頃には、休憩時間もほとんど終わっていた。
さっきまで繋いでいた手は。
教室へ戻る少し前に、自然と離れた。
「じゃ、俺ちょっと真澄んとこ行ってくる」
「うん」
「あとでまたな」
「……うん。またあとで」
慎が離れていく。
その後ろ姿を見ながら、私は自分の手を見る。
まだ少しだけ。
慎の手の温かさが残っている気がした。
それに――。
「…………っ」
さっきのことを思い出しただけで。
また顔が熱くなる。
慎と手を繋いで。
それだけじゃなくて――。
「水乃」
「わっ!」
急に後ろから声をかけられて振り返る。
優希が不思議そうに私を見ていた。
「何その顔」
「え?」
「なんか顔赤くない?」
「そ、そんなことないよ!」
慌てて両手で頬を押さえる。
そんな私を見て、優希がじっと目を細めた。
「文化祭、楽しかった?」
「……楽しかったよ」
今回は。
迷わずそう答えられた。
「ふーん」
「何?」
「慎と何かあった?」
「…………」
ドクン――。
思わず。
優希から目を逸らした。
「その反応、絶対何かあったじゃん」
「……手」
「ん?」
「慎と……手、繋いだ」
「えっ!?」
「ちょっと! 声大きい!」
慌てて。
優希の口元に指を当てる。
「だって! 水乃から!?」
「違うよ! 最初は人多くて、はぐれそうになって……慎から」
「あー……なるほど」
優希が納得したように頷く。
でも、すぐにまた私を見る。
「で?」
「何?」
「水乃は離したの?」
「…………」
答えに詰まる。
慎に手を掴まれた時。
驚いた。
でも。
嫌じゃなかった。
人混みを抜けても。
私から離そうとはしなかった。
「……離してない」
「嫌じゃなかったんだ?」
「……うん」
口にすると。
また自分でも意識してしまう。
「むしろ……」
「うん?」
「もうちょっと、このままでもいいかなって思った」
「…………」
優希が。
少し驚いたように目を丸くした。
「水乃、それ結構じゃない?」
「……自分でも分かってる」
本当は。
それだけじゃない。
慎の顔が近づいてきたことも。
あの一瞬も。
思い出すだけで。
胸がうるさくなる。
でも。
なぜかそれは、まだ優希にも言えなかった。
自分の中でも。
ちゃんと整理できてないから。
「慎のこと……好きになってるのかな」
気づけば。
そんな言葉が口から出ていた。
優希は少し考えてから。
私を見る。
「それは私には分かんないよ」
「……だよね」
「でも、水乃がそう思い始めてるってことは、前とは違うんじゃない?」
「……うん」
前とは違う。
それだけは、自分でも分かる。
慎を。
ただの友達として見られなくなってる。
「でもね」
「ん?」
私は。
窓の外を見る。
もう。
早手も木南さんもいなかった。
「さっき、早手と木南さんが一緒にいるの見たの」
「……うん」
「すごい仲良さそうで……恋人みたいだった」
思い出しただけで。
胸の奥がざわつく。
慎と一緒にいると。
あんなに楽しかったのに。
早手の隣に木南さんがいるのを見るだけで。
こんなに苦しくなる。
「見てたら……すごい嫌だった」
「…………」
「お腹痛くなるくらい、嫌だった」
そう言いながら。
また下腹部の奥が、きりっと痛んだ。
「……いた」
「え、水乃?」
「んー……なんか今日、お腹痛いかも」
「大丈夫?」
「大丈夫。さっき食べすぎたのかな」
「慎と何食べたの?」
「焼きそばとか……いろいろ」
「それじゃない?」
優希が笑う。
私も「やっぱり?」と笑い返した。
朝から少しお腹の調子が変だった気もするけど。
文化祭ではしゃいでいたせいだと思って、それ以上は気にしなかった。
「でもさ」
「うん?」
「慎と一緒にいるのが楽しかったのも、本当なの」
自分で言って。
少しだけ苦しくなる。
「早手と木南さん見て嫌だったのも本当で……慎と一緒にいるとドキドキするのも本当」
「うん」
「慎のこと考えると、前と違う感じがするのに……早手のことも、まだこんなに気になる」
「……私、変なのかな」
優希は少し考えてから。
首を横に振った。
「別に変じゃないと思う」
「ほんと?」
「どっちかが嘘ってわけじゃないんでしょ?」
「……うん」
「じゃあ今は、それでいいんじゃない?」
優希はそれ以上。
どっちを選べとも言わなかった。
「優希ー」
そこへ。
真澄が教室へ戻ってきた。
「次休憩だろ?」
「うん」
「一緒に回ろ」
「いいよ」
あまりにも普通に約束する2人を見て。
思わず頬を膨らませる。
「……いいなぁ」
「何が?」
「2人とも順調そうで」
「水乃だって、さっき慎と回ってきたじゃん」
「それとこれは違うの!」
「何が違うんだよ」
「違うの!」
真澄が「意味分かんねぇ」と笑う。
優希も笑っていた。
「じゃあ行ってくるね」
「うん。楽しんできて」
「水乃も仕事頑張って」
「はーい」
2人が教室を出ていく。
私はまたエプロンをつけ直して、接客へ戻る準備をした。
「……よし」
立ち上がった瞬間。
下腹部が、ずんと重くなる。
「……ん?」
少しだけ。
変な感じがした。
でも。
「水乃ー! こっちお願い!」
「あ、はーい!」
すぐに呼ばれて。
私はそのまま、お客さんのところへ向かった。
慎のことを。
少しずつ意識し始めてる。
それでも。
まだ早手のことも好き。
どっちも。
今の私の本当の気持ち。
まだ答えなんて出せないけど。
今は、それでいい気がした。
さっきまで繋いでいた手は。
教室へ戻る少し前に、自然と離れた。
「じゃ、俺ちょっと真澄んとこ行ってくる」
「うん」
「あとでまたな」
「……うん。またあとで」
慎が離れていく。
その後ろ姿を見ながら、私は自分の手を見る。
まだ少しだけ。
慎の手の温かさが残っている気がした。
それに――。
「…………っ」
さっきのことを思い出しただけで。
また顔が熱くなる。
慎と手を繋いで。
それだけじゃなくて――。
「水乃」
「わっ!」
急に後ろから声をかけられて振り返る。
優希が不思議そうに私を見ていた。
「何その顔」
「え?」
「なんか顔赤くない?」
「そ、そんなことないよ!」
慌てて両手で頬を押さえる。
そんな私を見て、優希がじっと目を細めた。
「文化祭、楽しかった?」
「……楽しかったよ」
今回は。
迷わずそう答えられた。
「ふーん」
「何?」
「慎と何かあった?」
「…………」
ドクン――。
思わず。
優希から目を逸らした。
「その反応、絶対何かあったじゃん」
「……手」
「ん?」
「慎と……手、繋いだ」
「えっ!?」
「ちょっと! 声大きい!」
慌てて。
優希の口元に指を当てる。
「だって! 水乃から!?」
「違うよ! 最初は人多くて、はぐれそうになって……慎から」
「あー……なるほど」
優希が納得したように頷く。
でも、すぐにまた私を見る。
「で?」
「何?」
「水乃は離したの?」
「…………」
答えに詰まる。
慎に手を掴まれた時。
驚いた。
でも。
嫌じゃなかった。
人混みを抜けても。
私から離そうとはしなかった。
「……離してない」
「嫌じゃなかったんだ?」
「……うん」
口にすると。
また自分でも意識してしまう。
「むしろ……」
「うん?」
「もうちょっと、このままでもいいかなって思った」
「…………」
優希が。
少し驚いたように目を丸くした。
「水乃、それ結構じゃない?」
「……自分でも分かってる」
本当は。
それだけじゃない。
慎の顔が近づいてきたことも。
あの一瞬も。
思い出すだけで。
胸がうるさくなる。
でも。
なぜかそれは、まだ優希にも言えなかった。
自分の中でも。
ちゃんと整理できてないから。
「慎のこと……好きになってるのかな」
気づけば。
そんな言葉が口から出ていた。
優希は少し考えてから。
私を見る。
「それは私には分かんないよ」
「……だよね」
「でも、水乃がそう思い始めてるってことは、前とは違うんじゃない?」
「……うん」
前とは違う。
それだけは、自分でも分かる。
慎を。
ただの友達として見られなくなってる。
「でもね」
「ん?」
私は。
窓の外を見る。
もう。
早手も木南さんもいなかった。
「さっき、早手と木南さんが一緒にいるの見たの」
「……うん」
「すごい仲良さそうで……恋人みたいだった」
思い出しただけで。
胸の奥がざわつく。
慎と一緒にいると。
あんなに楽しかったのに。
早手の隣に木南さんがいるのを見るだけで。
こんなに苦しくなる。
「見てたら……すごい嫌だった」
「…………」
「お腹痛くなるくらい、嫌だった」
そう言いながら。
また下腹部の奥が、きりっと痛んだ。
「……いた」
「え、水乃?」
「んー……なんか今日、お腹痛いかも」
「大丈夫?」
「大丈夫。さっき食べすぎたのかな」
「慎と何食べたの?」
「焼きそばとか……いろいろ」
「それじゃない?」
優希が笑う。
私も「やっぱり?」と笑い返した。
朝から少しお腹の調子が変だった気もするけど。
文化祭ではしゃいでいたせいだと思って、それ以上は気にしなかった。
「でもさ」
「うん?」
「慎と一緒にいるのが楽しかったのも、本当なの」
自分で言って。
少しだけ苦しくなる。
「早手と木南さん見て嫌だったのも本当で……慎と一緒にいるとドキドキするのも本当」
「うん」
「慎のこと考えると、前と違う感じがするのに……早手のことも、まだこんなに気になる」
「……私、変なのかな」
優希は少し考えてから。
首を横に振った。
「別に変じゃないと思う」
「ほんと?」
「どっちかが嘘ってわけじゃないんでしょ?」
「……うん」
「じゃあ今は、それでいいんじゃない?」
優希はそれ以上。
どっちを選べとも言わなかった。
「優希ー」
そこへ。
真澄が教室へ戻ってきた。
「次休憩だろ?」
「うん」
「一緒に回ろ」
「いいよ」
あまりにも普通に約束する2人を見て。
思わず頬を膨らませる。
「……いいなぁ」
「何が?」
「2人とも順調そうで」
「水乃だって、さっき慎と回ってきたじゃん」
「それとこれは違うの!」
「何が違うんだよ」
「違うの!」
真澄が「意味分かんねぇ」と笑う。
優希も笑っていた。
「じゃあ行ってくるね」
「うん。楽しんできて」
「水乃も仕事頑張って」
「はーい」
2人が教室を出ていく。
私はまたエプロンをつけ直して、接客へ戻る準備をした。
「……よし」
立ち上がった瞬間。
下腹部が、ずんと重くなる。
「……ん?」
少しだけ。
変な感じがした。
でも。
「水乃ー! こっちお願い!」
「あ、はーい!」
すぐに呼ばれて。
私はそのまま、お客さんのところへ向かった。
慎のことを。
少しずつ意識し始めてる。
それでも。
まだ早手のことも好き。
どっちも。
今の私の本当の気持ち。
まだ答えなんて出せないけど。
今は、それでいい気がした。
