beautiful love ★ 俺様boyと天然girl

「水乃、そっち危ない」

「え?」

慎に腕を引かれて、横から来た人を避ける。

「ありがと」

「ちゃんと前見ろよ。さっきから人にぶつかりそうになってるじゃん」

「見てるよ。慎が急に話しかけるからでしょ」

「俺のせい?」

「慎だって――」

言い返そうとした時、人の流れに押されて慎との間が少し離れた。

後ろからもどんどん人が来るせいで立ち止まれず、そのまま前へ押されてしまう。

「わっ……慎」

振り返った時には、さっきまで隣にいた慎が少し遠くなっていた。

「水乃」

慎が人の間から手を伸ばして。

そのまま私の手を掴む。

「…………」

「はぐれるだろ。こっち」

慎はそれだけ言って、私の手を引きながら人混みの中を歩いていく。

「……慎」

「何?」

「手……繋いでる」

「うん」

慎が少しだけ振り返る。

「嫌だった?」

「…………」

繋がれた手を見る。

少し前までの私なら、きっとすぐに離していた。

慎は友達だから。

こういうのは違うって、何も考えずに言えたはずなのに。

でも今は。

離してほしいとは思わなかった。

「……嫌じゃないよ」

自分でも驚くくらい。

素直に言葉が出た。

慎も少し驚いたように私を見る。

「……そっか」

それから。

少しだけ嬉しそうに笑った。

人混みを抜けても、繋いだ手はそのままだった。

慎も離さないし、私も自分から離そうとはしなかった。

ただ手を繋いでいるだけなのに。

意識した途端、心臓が少しずつうるさくなっていく。

「水乃」

「……ん?」

「もう人いないけど」

「え?」

言われて周りを見る。

さっきまでの人混みはなくなっていて、廊下も普通に歩けるくらいになっていた。

それでも。

私たちの手は繋がったまま。

「…………」

「まだ繋いでていい?」

慎が。

私の顔を見ながら聞く。

「……うん」

小さく答えると。

慎が一瞬、何も言わなくなった。

「……何?」

「いや」

繋いだ手を見て。

また私を見る。

「水乃、そういうこと言うようになったんだなって」

「どういうこと?」

「前なら絶対離してたじゃん」

「…………」

それは。

私も思ってた。

少し前までなら。

慎に手を繋がれた時点で、きっと慌てて離してた。

なのに今は。

嫌じゃない。

それどころか。

もう少し、このままでいたいと思ってる。

「……俺さ」

慎が立ち止まる。

繋がっていた手に引かれて、私も足を止めた。

「前に言ったこと、覚えてる?」

「……告白?」

「うん」

ドクン――。

慎の顔から。

さっきまでのふざけた感じが消える。

「俺、水乃のこと好きだから」

「…………」

「今すぐ早手のこと忘れろとか、俺を好きになれとか……そういうこと言うつもりない」

「慎……」

「まだ好きなんだろ? 早手のこと」

胸が。

小さく痛んだ。

否定できなくて。

私は黙ったまま俯く。

「いいよ、それでも」

「……え?」

「前にも言ったじゃん。それでもいいって」

慎は。

私の手を握ったまま笑う。

「でも俺のことも、ちゃんと男として見てほしい」

「…………」

「最近の水乃見てたら……ちょっとくらいは期待してもいいのかなって思う」

「期待って……」

「俺のこと」

ドクン――。

「…………」

何も言えない。

慎は友達。

ずっとそう思ってた。

だけど。

今は違う。

手を繋いでいるだけで。

こんなに意識してる。

近くで見つめられると。

目を逸らしたくなるくらい、心臓がうるさい。

これが。

慎を好きってことなのかは、まだ分からない。

だけど。

前と同じじゃないことだけは分かる。

「……水乃」

「ん……?」

慎が。

少しだけ私との距離を縮めた。

それだけで。

ドクンッと胸が鳴る。

「……キスしていい?」

「…………っ!?」

思わず。

慎を見る。

「な、何言って……」

「嫌ならしない」

慎はそれ以上近づかない。

私の返事を待つみたいに、その場で止まっている。

「…………」

キス。

慎と……。

頭に浮かんだ瞬間。

胸が苦しくなる。

早手じゃない人と。

そんなことしていいのかな。

でも。

もう私たちは別れてる。

それに。

慎の気持ちにちゃんと向き合いたいって思ったのも、本当。

「…………」

繋いでいた手に。

少しだけ力を入れる。

「……水乃?」

嫌だったら。

嫌って言えばいい。

離してって。

言えばいい。

なのに。

言葉が出てこない。

私は。

慎から目を逸らさなかった。

慎が少しだけ。

私の顔を覗き込む。

「……ほんとに嫌だったら言えよ」

「…………うん」

小さく答える。

それから。

慎の顔がゆっくり近づいてきた。

ドクン――。

反射的に。

目を閉じる。

次の瞬間。

唇に、慎の唇が触れた。

「…………」

ほんの一瞬。

確かめるみたいなキスだった。

すぐに慎が離れる。

「…………っ」

顔が熱い。

慎の顔が見られない。

「……ごめん」

「え……?」

「やっぱ、ちょっと早かった?」

慎が困ったように笑う。

私は。

すぐに答えられなかった。

嫌だった?

そう聞かれたら。

どう答えるんだろう。

早手じゃない。

慎とキスした。

なのに。

嫌じゃなかった。

そのことに。

自分が一番驚いてる。

「……水乃?」

「…………嫌じゃ、なかった」

言ってから。

自分の言葉にまた胸が鳴った。

慎が目を見開く。

「……それ、マジで言ってる?」

「何回も聞かないで……!」

恥ずかしくなって顔を背ける。

だけど慎は、今まで見たことないくらい嬉しそうに笑った。

「じゃあ俺、もっと頑張っていい?」

「……何を?」

「水乃に俺のこと好きになってもらうの」

「…………」

また。

そんなことを真っ直ぐ言う。

「だから慎は……そういうの急に言わないでよ」

「隠さないって言ったじゃん」

そう言って。

慎はまた私の手を握る。

今度は。

私も握り返した。

「…………」

慎とキスした。

それなのに、私は今も早手が好き。

そんな自分の気持ちは。

やっぱりまだ、よく分からない。

だけど。

慎に触れられることを嫌だと思わなかった。

慎の手を。

自分から握り返した。

そのことだけは。

もう誤魔化せなかった。