beautiful love ★ 俺様boyと天然girl

「水乃、そろそろ行ける?」

慎に声をかけられて、時計を見る。

さっき約束していた時間になっていた。

「あ、うん」

「じゃあ行こ」

エプロンを外して、慎と一緒に教室を出る。

廊下は朝よりも人が増えていて、歩くだけでも大変なくらい混んでいた。

「どこ行く?」

「慎、行きたいところないの?」

「俺? 食えればどこでもいい」

「それ絶対食べ物じゃん」

「文化祭なんて食うためにあるだろ」

「違うから」

慎と話しながら歩く。

でも。

さっき見た光景が、まだ頭の中に残っていた。

いつもと違う早手。

その隣で笑っていた木南さん。

腕を引かれても、早手は振り払わなかった。

「…………」

「水乃」

「……ん?」

「聞いてた?」

「聞いてたよ」

「じゃあ俺、今何て言った?」

「…………」

「聞いてねぇじゃん」

慎が呆れたように笑う。

「ごめん」

「何かあった?」

「ううん」

「ほんと?」

「……ほんと」

慎は少しだけ私を見たけど、それ以上は聞いてこなかった。

「じゃあ、とりあえずあれ行こ」

「どれ?」

「あれ」

「だからどれ?」

「焼きそば」

「やっぱり食べ物じゃん!」

慎が笑いながら先に歩いていく。

私もその後を追いかけた。

「2つください」

「慎、私まだ食べるって言ってない」

「食べないの?」

「……食べる」

「じゃあいいじゃん」

「勝手に決めないでよ」

受け取った焼きそばを持って、空いている場所を探す。

慎が先に座って、私もその隣に座った。

「うま」

「まだ一口じゃん」

「一口で分かる」

「ほんとに?」

「食ってみ」

慎が自分の焼きそばを私の方へ差し出してくる。

「私も同じの持ってるけど」

「じゃあいらねぇじゃん」

「慎が食べろって言ったんでしょ!」

思わず笑う。

慎も笑っていた。

さっきまで頭の中にいた早手と木南さんが、少しずつ遠くなっていく。

「次どこ行く?」

「まだ食う」

「また?」

「次、たこ焼き」

「絶対お腹いっぱいになるよ」

「水乃半分食って」

「何で私なの」

そんな話をしながら、また歩き出す。

途中でゲームをしているクラスを見つけて、慎が急に立ち止まった。

「水乃、あれやろ」

「え、嫌だ」

「何で」

「慎こういうの絶対本気になるもん」

「ならねぇよ」

「なるよ!」

結局。

慎に押されて、一緒に参加することになった。

結果は、思っていた通り。

「ちょっと慎! 本気出しすぎ!」

「勝負なんだから当たり前だろ」

「こういう時は普通、ちょっと手加減するでしょ!」

「何で水乃に?」

「女の子だから!」

「水乃相手に手加減したら怒るじゃん」

「それとこれは別!」

悔しくて慎の腕を叩く。

慎が笑いながら逃げる。

「痛いって!」

「待って!」

「やだね」

「慎!」

気づけば。

私も笑っていた。

さっきまでお腹がきりきりしていたことも、早手のことを考えていたことも。

いつの間にか忘れていた。

「……疲れた」

「水乃が追いかけてくるからだろ」

「慎が逃げるからでしょ」

少し人の少ないところまで来て、2人で立ち止まる。

慎が自販機で飲み物を買って、私にも1本渡してきた。

「ありがと」

「ん」

受け取って、一口飲む。

さっきまであんなに騒いでいたのに、少し静かになると急に恥ずかしくなった。

「水乃」

「ん?」

「楽しい?」

急に聞かれて。

慎を見る。

「……楽しいよ」

「ほんと?」

「うん」

今度は。

迷わず答えられた。

「慎は?」

「楽しい」

「即答」

「そりゃそうだろ」

慎が笑う。

「水乃と回りたかったし」

「…………」

また。

そういうことを普通に言う。

少し前までなら、何とも思わなかったはずなのに。

今は慎の一言一言を、変に意識してしまう。

「……慎、告白してからずるい」

「何が?」

「そういうこと普通に言うから」

「隠さないって言ったじゃん」

慎が笑う。

私も小さく笑った。

「次、水乃が行きたいとこ行こ」

「ほんと?」

「うん」

「じゃあ……あそこ行きたい!」

「どこ?」

「さっき通った時にあったやつ!」

「分かんねぇって」

「こっち!」

今度は。

私が先に歩き出す。

「慎、早く!」

「はいはい」

後ろから慎がついてくる。

さっきまでは、慎について歩いていただけだった。

でも今は。

もう少し一緒に回りたいって。

自分から思っていた。