「ありがとうございましたー!」
お客さんを見送って、空いたグラスを片づける。
文化祭が始まってから、ほとんど休む暇がないくらい忙しい。
教室の中もずっと騒がしかったけど。
さっきから、外がやけに騒がしい。
「何か外うるさくない?」
「ね。なんだろ」
近くにいた女子も、窓の方を見る。
私もグラスを持ったまま、なんとなく外を見た。
「…………え」
すぐに。
早手を見つけた。
「…………」
一瞬。
早手だと分からなかった。
いつもの制服じゃなくて、文化祭用の衣装を着ている。
髪もいつもと違って、ワックスで少し上げていた。
「…………」
大人っぽい。
いつもの早手と、全然違う。
小さい頃からずっと一緒にいて、寝癖のまま学校に行こうとする早手だって何度も見てきた。
なのに。
こんな早手は初めて見た。
「……かっこいい」
気づいた時には。
小さく声に出していた。
同じ早手なのに。
知らない人を見ているみたいで、しばらく目を離せなかった。
「ねぇねぇ! 今日文化祭一緒に回らない!?」
「え、ひどい! 私も!」
「やだ! 私と回ってぇぇ!!」
外から聞こえてきた声で。
やっと周りが騒がしい理由が分かった。
早手の周りには、他校の制服を着た女の子たちが集まっていた。
1人が早手の前に出れば、別の子が横から割って入る。
「ねぇ、いいじゃん!」
「ちょっとだけでいいから!」
「私たちと回ろーよ!」
「……無理」
早手は。
ものすごく嫌そうな顔をしていた。
「えー! 何で!?」
「仕事あるから」
「じゃあ仕事終わってから!」
「無理」
「即答ひどーい!」
それでも女の子たちは離れない。
むしろ早手の反応を面白がって、どんどん騒がしくなっている。
「早手、お前人気者だなー」
そこへ。
真澄が入ってきた。
「うるせぇ。何とかしろ」
「何で俺が」
「いいから」
「はいはい」
真澄が笑いながら、女の子たちと早手の間に入る。
「ごめんなー。こいつ今仕事中だから」
「じゃあ終わったらいい?」
「それは本人に聞いて」
「真澄」
「睨むなって!」
女の子たちが笑う。
早手は本当に嫌そうなのに。
それでも。
なんとなく胸の奥がざわついた。
「はいはいー! そこ通路塞がないでねー!」
その時。
聞き覚えのある声がした。
「うちのクラス、こっちでやってますー!」
女の子たちの間から。
木南さんが入ってくる。
「せっかく来たなら寄ってってくださーい!」
「えー、でも神崎くんと回りたい!」
「早手、今仕事中だから」
早手。
木南さんがそう呼んだ瞬間。
胸の奥が少しだけ騒いだ。
「ほら、早手」
「何」
「ちゃんと案内して」
「してるし」
「女の子に囲まれてるだけじゃん」
「俺が好きで囲まれてると思う?」
「思わない」
木南さんが笑う。
早手も嫌そうな顔をしながら、普通に言い返している。
「じゃあ、ほら。こっち」
「引っ張んなって」
「早手が動かないからでしょ」
木南さんが早手の腕を引く。
早手も、それを振り払わなかった。
「…………」
なんだろう。
すごく自然だった。
木南さんが早手の隣にいて、早手がそれに普通に答えている。
他校の女の子たちに囲まれていた時とは、全然違う。
「早手、そっちじゃないって!」
「分かってる」
「絶対分かってないじゃん」
「うるせぇな」
「ほら、早く!」
木南さんが笑いながら先に歩く。
早手も、その後をついていく。
「…………」
恋人。
そんな言葉が。
ふっと頭に浮かんだ。
他校の女の子に囲まれているのを見た時も、少し嫌だった。
でも。
木南さんが隣に来てからは。
それとは全然違う。
「…………っ」
お腹の奥が。
きりきりする。
「……なんだろ……」
痛い。
さっきまで何ともなかったのに。
2人を見ているだけで、どんどん苦しくなる。
もう。
私には関係ない。
早手が誰と一緒にいても。
木南さんと仲良くしていても。
私が何か言えることじゃない。
分かってる。
自分から離れたんだから。
それなのに。
窓の向こうで並んで歩いていく2人から、なかなか目を離せなかった。
慎と一緒にいると。
あんなに楽しいのに。
慎に好きだと言われると。
嬉しいのに。
それでも。
早手の隣に木南さんがいるだけで。
こんなに苦しくなる。
「…………」
お腹が。
また、きりきりした。
私は。
まだ。
早手のこと――。
そこまで考えて。
やめた。
今は。
考えたくなかった。
お客さんを見送って、空いたグラスを片づける。
文化祭が始まってから、ほとんど休む暇がないくらい忙しい。
教室の中もずっと騒がしかったけど。
さっきから、外がやけに騒がしい。
「何か外うるさくない?」
「ね。なんだろ」
近くにいた女子も、窓の方を見る。
私もグラスを持ったまま、なんとなく外を見た。
「…………え」
すぐに。
早手を見つけた。
「…………」
一瞬。
早手だと分からなかった。
いつもの制服じゃなくて、文化祭用の衣装を着ている。
髪もいつもと違って、ワックスで少し上げていた。
「…………」
大人っぽい。
いつもの早手と、全然違う。
小さい頃からずっと一緒にいて、寝癖のまま学校に行こうとする早手だって何度も見てきた。
なのに。
こんな早手は初めて見た。
「……かっこいい」
気づいた時には。
小さく声に出していた。
同じ早手なのに。
知らない人を見ているみたいで、しばらく目を離せなかった。
「ねぇねぇ! 今日文化祭一緒に回らない!?」
「え、ひどい! 私も!」
「やだ! 私と回ってぇぇ!!」
外から聞こえてきた声で。
やっと周りが騒がしい理由が分かった。
早手の周りには、他校の制服を着た女の子たちが集まっていた。
1人が早手の前に出れば、別の子が横から割って入る。
「ねぇ、いいじゃん!」
「ちょっとだけでいいから!」
「私たちと回ろーよ!」
「……無理」
早手は。
ものすごく嫌そうな顔をしていた。
「えー! 何で!?」
「仕事あるから」
「じゃあ仕事終わってから!」
「無理」
「即答ひどーい!」
それでも女の子たちは離れない。
むしろ早手の反応を面白がって、どんどん騒がしくなっている。
「早手、お前人気者だなー」
そこへ。
真澄が入ってきた。
「うるせぇ。何とかしろ」
「何で俺が」
「いいから」
「はいはい」
真澄が笑いながら、女の子たちと早手の間に入る。
「ごめんなー。こいつ今仕事中だから」
「じゃあ終わったらいい?」
「それは本人に聞いて」
「真澄」
「睨むなって!」
女の子たちが笑う。
早手は本当に嫌そうなのに。
それでも。
なんとなく胸の奥がざわついた。
「はいはいー! そこ通路塞がないでねー!」
その時。
聞き覚えのある声がした。
「うちのクラス、こっちでやってますー!」
女の子たちの間から。
木南さんが入ってくる。
「せっかく来たなら寄ってってくださーい!」
「えー、でも神崎くんと回りたい!」
「早手、今仕事中だから」
早手。
木南さんがそう呼んだ瞬間。
胸の奥が少しだけ騒いだ。
「ほら、早手」
「何」
「ちゃんと案内して」
「してるし」
「女の子に囲まれてるだけじゃん」
「俺が好きで囲まれてると思う?」
「思わない」
木南さんが笑う。
早手も嫌そうな顔をしながら、普通に言い返している。
「じゃあ、ほら。こっち」
「引っ張んなって」
「早手が動かないからでしょ」
木南さんが早手の腕を引く。
早手も、それを振り払わなかった。
「…………」
なんだろう。
すごく自然だった。
木南さんが早手の隣にいて、早手がそれに普通に答えている。
他校の女の子たちに囲まれていた時とは、全然違う。
「早手、そっちじゃないって!」
「分かってる」
「絶対分かってないじゃん」
「うるせぇな」
「ほら、早く!」
木南さんが笑いながら先に歩く。
早手も、その後をついていく。
「…………」
恋人。
そんな言葉が。
ふっと頭に浮かんだ。
他校の女の子に囲まれているのを見た時も、少し嫌だった。
でも。
木南さんが隣に来てからは。
それとは全然違う。
「…………っ」
お腹の奥が。
きりきりする。
「……なんだろ……」
痛い。
さっきまで何ともなかったのに。
2人を見ているだけで、どんどん苦しくなる。
もう。
私には関係ない。
早手が誰と一緒にいても。
木南さんと仲良くしていても。
私が何か言えることじゃない。
分かってる。
自分から離れたんだから。
それなのに。
窓の向こうで並んで歩いていく2人から、なかなか目を離せなかった。
慎と一緒にいると。
あんなに楽しいのに。
慎に好きだと言われると。
嬉しいのに。
それでも。
早手の隣に木南さんがいるだけで。
こんなに苦しくなる。
「…………」
お腹が。
また、きりきりした。
私は。
まだ。
早手のこと――。
そこまで考えて。
やめた。
今は。
考えたくなかった。
