文化祭当日。
教室に入ると、昨日までとは全然違う空気だった。
廊下には飾りが並び、あちこちから楽しそうな声が聞こえてくる。
何日も準備してきた文化祭が、やっと始まる。
「水乃、早く着替えよ!」
「待って、まだ荷物置いてない!」
「あとでいいって!」
「よくないよ!」
優希に腕を引かれて、更衣スペースへ向かう。
今日の私たちのクラスはカフェ。
私は白いブラウスと黒のスカートに着替えて、フリルのついたエプロンをつけた。
昨日選んだ時は平気だったのに、実際に着ると思っていたより恥ずかしい。
「……やっぱり普通のエプロンにしない?」
「今さら?」
「だって恥ずかしい」
「可愛いじゃん」
「優希は似合ってるからいいけど」
「水乃も似合ってるよ」
優希が私の髪を少し整えてくれる。
「ほら、できた」
「……変じゃない?」
「全然。慎とか絶対なんか言うよ」
「何で慎が出てくるの」
「さあ?」
「優希!」
笑いながら先に行く優希を追いかけて、教室へ戻る。
男子たちも準備をしていて、慎は入口でメニュー表を直していた。
少し離れたところには、早手もいる。
いつも見ているはずなのに、今日はこの格好を見られると思うと少しだけ緊張した。
「慎ー、そこもうちょっと右!」
「どっち?」
「慎から見て右!」
「最初からそう言って」
慎がメニュー表を動かしながら、こっちを向く。
目が合った瞬間。
動きが止まった。
「……あ」
「何?」
「…………」
「慎?」
「いや」
慎が私の格好を見て、少しだけ目を逸らす。
「普通に可愛い」
「…………」
「何、その顔」
「そんな普通に言わないでよ!」
「思ったから言っただけじゃん」
顔が熱くなる。
告白してからの慎は、本当に好きなのを隠さなくなった。
「水乃、顔赤い」
「赤くない!」
「赤いって」
「慎うるさい!」
慎が笑う。
恥ずかしくなって、私は優希のところへ逃げた。
「何言われたの?」
「何でもない!」
「顔赤いよ?」
「優希まで言わないで!」
誤魔化すように準備を始める。
その時、なんとなく視線を感じて顔を上げた。
「…………」
早手と目が合った。
早手の目が一度だけ私の衣装に向いて、また目が合う。
何か言われる気がして、ほんの少しだけ待ってしまった。
前だったら。
「……似合ってんじゃね」くらいは、言ってくれたかもしれない。
「…………」
でも。
早手は何も言わずに目を逸らした。
当たり前だ。
もう関わらないでって言ったのは、私だから。
早手はただ、私が言った通りにしているだけ。
分かっているのに、少しだけ寂しかった。
「水乃」
慎の声に振り返る。
「これどこ置くんだっけ?」
「それレジの横」
「こっち?」
「うん」
「これは?」
「それ違う。こっち」
「分かんねぇ」
「昨日説明したでしょ」
慎と話していると、さっきまでの寂しさが少しずつ薄くなる。
最近は、こういうことが増えた。
早手のことで苦しくなっても、慎といると自然に笑える。
「水乃」
「ん?」
「今日、一緒に回らない?」
「…………」
今の私には。
その言葉を、ただの友達からの誘いとして聞くことはできなかった。
「……いいよ」
「マジ?」
「何で慎が驚くの」
「普通に嬉しいから」
慎が嬉しそうに笑う。
それを見て、私も少しだけ嬉しくなる。
「仕事ちゃんとしてよ?」
「するって」
「ほんとに?」
「信用なさすぎ」
慎が笑いながら離れていく。
慎と一緒に文化祭を回る。
そう考えると、素直に楽しみだった。
それでも。
もう一度だけ早手を見る。
早手は、もうこっちを見ていなかった。
慎に可愛いと言われて嬉しい。
一緒に回るのも楽しみ。
でも。
早手が何も言ってくれなかったことは、やっぱり少し寂しかった。
今の私の中には。
その両方があった。
教室に入ると、昨日までとは全然違う空気だった。
廊下には飾りが並び、あちこちから楽しそうな声が聞こえてくる。
何日も準備してきた文化祭が、やっと始まる。
「水乃、早く着替えよ!」
「待って、まだ荷物置いてない!」
「あとでいいって!」
「よくないよ!」
優希に腕を引かれて、更衣スペースへ向かう。
今日の私たちのクラスはカフェ。
私は白いブラウスと黒のスカートに着替えて、フリルのついたエプロンをつけた。
昨日選んだ時は平気だったのに、実際に着ると思っていたより恥ずかしい。
「……やっぱり普通のエプロンにしない?」
「今さら?」
「だって恥ずかしい」
「可愛いじゃん」
「優希は似合ってるからいいけど」
「水乃も似合ってるよ」
優希が私の髪を少し整えてくれる。
「ほら、できた」
「……変じゃない?」
「全然。慎とか絶対なんか言うよ」
「何で慎が出てくるの」
「さあ?」
「優希!」
笑いながら先に行く優希を追いかけて、教室へ戻る。
男子たちも準備をしていて、慎は入口でメニュー表を直していた。
少し離れたところには、早手もいる。
いつも見ているはずなのに、今日はこの格好を見られると思うと少しだけ緊張した。
「慎ー、そこもうちょっと右!」
「どっち?」
「慎から見て右!」
「最初からそう言って」
慎がメニュー表を動かしながら、こっちを向く。
目が合った瞬間。
動きが止まった。
「……あ」
「何?」
「…………」
「慎?」
「いや」
慎が私の格好を見て、少しだけ目を逸らす。
「普通に可愛い」
「…………」
「何、その顔」
「そんな普通に言わないでよ!」
「思ったから言っただけじゃん」
顔が熱くなる。
告白してからの慎は、本当に好きなのを隠さなくなった。
「水乃、顔赤い」
「赤くない!」
「赤いって」
「慎うるさい!」
慎が笑う。
恥ずかしくなって、私は優希のところへ逃げた。
「何言われたの?」
「何でもない!」
「顔赤いよ?」
「優希まで言わないで!」
誤魔化すように準備を始める。
その時、なんとなく視線を感じて顔を上げた。
「…………」
早手と目が合った。
早手の目が一度だけ私の衣装に向いて、また目が合う。
何か言われる気がして、ほんの少しだけ待ってしまった。
前だったら。
「……似合ってんじゃね」くらいは、言ってくれたかもしれない。
「…………」
でも。
早手は何も言わずに目を逸らした。
当たり前だ。
もう関わらないでって言ったのは、私だから。
早手はただ、私が言った通りにしているだけ。
分かっているのに、少しだけ寂しかった。
「水乃」
慎の声に振り返る。
「これどこ置くんだっけ?」
「それレジの横」
「こっち?」
「うん」
「これは?」
「それ違う。こっち」
「分かんねぇ」
「昨日説明したでしょ」
慎と話していると、さっきまでの寂しさが少しずつ薄くなる。
最近は、こういうことが増えた。
早手のことで苦しくなっても、慎といると自然に笑える。
「水乃」
「ん?」
「今日、一緒に回らない?」
「…………」
今の私には。
その言葉を、ただの友達からの誘いとして聞くことはできなかった。
「……いいよ」
「マジ?」
「何で慎が驚くの」
「普通に嬉しいから」
慎が嬉しそうに笑う。
それを見て、私も少しだけ嬉しくなる。
「仕事ちゃんとしてよ?」
「するって」
「ほんとに?」
「信用なさすぎ」
慎が笑いながら離れていく。
慎と一緒に文化祭を回る。
そう考えると、素直に楽しみだった。
それでも。
もう一度だけ早手を見る。
早手は、もうこっちを見ていなかった。
慎に可愛いと言われて嬉しい。
一緒に回るのも楽しみ。
でも。
早手が何も言ってくれなかったことは、やっぱり少し寂しかった。
今の私の中には。
その両方があった。
