beautiful love ★ 俺様boyと天然girl

部活が終わって。

着替えを済ませて体育館を出ると、少し先で慎が待っていた。

「水乃」

「ごめん、待った?」

「いや。今来たとこ」

「じゃあ帰ろ」

「おう」

最近は、こうして慎と一緒に帰ることが本当に増えた。

最初は早手と一緒に帰らないことが寂しくて、その寂しさを感じないために慎と話していたような気もする。

でも今は、部活が終わると自然に慎を探すし、慎が待っていてくれることにも安心する。

校門を出て、いつもの道を並んで歩く。

慎は部活中に真澄がシュートを外した話をしていたけれど、私は適当に返事をしながら、さっきの教室でのことを思い出していた。

女子に囲まれて笑っていた慎。

腕を掴まれて、そのまま連れていかれた慎。

それを見て、なぜか少しだけ面白くないと思った自分。

「……水乃」

「ん?」

「聞いてた?」

「聞いてたよ」

「じゃあ俺、今何の話してた?」

「…………」

「ほら聞いてねぇじゃん」

慎が呆れたみたいに笑う。

「ごめん。ちょっと考え事してた」

「何考えてたの?」

「別に」

「またそれ」

慎が横から私の顔を覗き込んでくる。

少し前なら普通に押し返していたのに、今は近づかれるだけで妙に意識してしまう。

「今日さ」

「何?」

「途中から機嫌悪かっただろ」

「悪くないって言ったじゃん」

「絶対悪かった」

「慎が勝手にそう思ってるだけ」

「俺、水乃と何年友達やってると思ってんの」

そう言われると。

何も言えない。

慎だって、私のことを長く見てきた。

早手ほどじゃないけれど、私が機嫌悪い時も、落ち込んでいる時も、何度も見られている。

「俺、なんかした?」

「してないよ」

「じゃあ何」

「……ほんとに何でもない」

慎はしばらく私を見ていたけれど、無理に聞き出そうとはしなかった。

「ならいいけど」

それだけ言って、また前を向く。

その反応に少し安心したのに。

今度はなぜか、自分から口を開いていた。

「……慎」

「ん?」

「今日、楽しそうだったね」

「今日?」

「文化祭の準備」

「まあ、普通じゃね?」

「女子たちと」

言った瞬間。

しまったと思った。

慎が黙る。

「…………」

「何」

「いや」

「何?」

「そこ気にしてたの?」

「気にしてない!」

すぐに否定すると、慎が少しだけ笑った。

「じゃあ何で女子ってわざわざつけたの」

「それは……」

「しかも俺、腕掴まれてた時、水乃こっち見てたよな」

「見てない!」

「見てたって」

「たまたま!」

どんどん苦しくなる。

慎は笑っているけれど、からかうというより、何かを確かめるみたいに私を見ていた。

「水乃」

「なに」

「もしかして妬いた?」

「違う!」

反射的に否定した。

そんなはずない。

だって私はまだ早手のことが好きで。

慎のことは、まだ自分でもよく分からない。

それなのに慎が他の女子といるだけで嫉妬するなんて。

そんなのおかしい。

「別に慎が誰と話してても、私には関係ないし」

「……そ」

「女子と一緒にいても、腕掴まれてても、別に何とも思わないし」

「めちゃくちゃ覚えてんじゃん」

「…………」

言われて。

黙る。

慎が吹き出した。

「もう! 慎嫌い!」

「それは困る」

「知らない!」

「俺、水乃に嫌われたら普通にへこむけど」

「…………」

そういうことを。

最近の慎は、普通に言う。

前なら冗談なのか本気なのか分からないようなことでも、今は違う。

慎が私を好きだと知っているから、全部そのまま受け取ってしまう。

「……でもさ」

慎の声が少しだけ真面目になる。

「別に心配しなくていいよ」

「何を?」

「今日のやつら」

「心配なんてしてない」

「はいはい」

「ほんとだもん」

慎が少し笑って。

それから、何でもないことみたいに言った。

「俺が好きなの、水乃だけだし」

「…………」

足が。

一瞬止まった。

慎も数歩先で止まって、振り返る。

「何?」

「……何でそんな普通に言えるの」

「何が?」

「好きとか……そういうの」

「だってもう隠さないって言ったじゃん」

確かに。

言ってた。

――でも、俺が水乃のこと好きなのは、もう隠さない。

あの時。

慎はちゃんとそう言った。

「だから、水乃が俺のことどう思ってるかはまだいいけど」

慎が私を見る。

「俺が他のやつ好きになるとか、そこは気にしなくていいから」

「…………」

また。

心臓が変に速くなる。

こんなことを言われて。

どう返せばいいのか分からない。

「……慎って」

「ん?」

「告白してから、ちょっと変わったよね」

「そう?」

「変わった」

「どこが」

「なんか……普通にそういうこと言う」

「だから我慢すんのやめたって言ったじゃん」

慎はそう言って、また歩き始める。

私も少し遅れて、その隣に並んだ。

我慢するのをやめた慎は。

思っていたよりずっとずるい。

好きだと言われるたびに。

自分だけだと言われるたびに。

少しずつ、慎を意識する時間が増えていく。

しばらく歩いていると。

慎が急に私の方へ手を伸ばした。

「何?」

反射的に身体を引くと。

慎の手が途中で止まった。

「髪」

「え?」

「なんかついてる」

慎が指で自分の髪を示す。

「どこ?」

「こっち」

自分で触ってみるけれど、分からない。

「取れてない?」

「全然」

「どこなの?」

「……取っていい?」

その一言に。

少しだけ驚いた。

前なら。

慎はそんなこと聞かなかったと思う。

告白したから。

私が意識していることを知ったから。

ちゃんと聞いてくれた。

「……うん」

答えると。

慎の手がゆっくり近づいてくる。

髪に指が触れて。

小さな紙切れを取る。

「ほら」

「……ありがと」

「おう」

それだけ。

本当にそれだけなのに。

さっきまで女子に腕を掴まれていた慎を見た時とは、全然違う。

今は。

慎の手が私に触れたことの方が。

ずっと気になっていた。

家の近くまで来ると、慎がいつものように立ち止まった。

「じゃ、また明日」

「うん」

「朝、いつものとこで待ってる」

「分かった」

慎が手を上げて、反対方向へ歩いていく。

少し離れてから。

「慎!」

気づけば。

呼び止めていた。

慎が振り返る。

「何?」

「…………」

呼んだくせに。

言うことなんて考えてなかった。

「……明日」

「うん」

「寝坊しないでね」

やっと出てきたのは。

そんな言葉だった。

「しねぇよ」

「この前してたじゃん」

「1回だけだろ」

「じゃあちゃんと来てよ」

慎が。

少しだけ目を細めた。

「行くよ」

それから。

少し笑う。

「水乃が待ってるなら」

「…………」

「じゃーな」

今度こそ慎が歩いていく。

私はその後ろ姿を、少しの間見ていた。

今日。

慎が他の女子と一緒にいるのを見て、少し嫌だった。

慎が私のところに戻ってきたら、少し安心した。

そして今。

明日の朝も慎に会えることを、楽しみにしている。

それが何なのか。

まだ自分では分からない。

でも。

少し前までの私なら、慎が誰と話しているかなんて気にもしなかった。

そこだけは。

確実に変わっていた。