女子が第二教室に移動してから、結構時間が経った。
サイズ合わせだけじゃねぇの?
遅すぎだろ。
気づけば文化祭の準備も一旦止まって、教室に残ってる男子はほとんど自由時間になっていた。
「女子遅くね?」
真澄が机に座りながら、第二教室の方を見る。
「知らね」
「着替えるだけで何分かかんだよ」
「女子なんてそんなもんだろ」
「つーかメイド服だろ?」
「だから?」
「いや、楽しみじゃん」
「何が」
「お前ほんと男か?」
うるせぇ。
別にクラスの女子が何着ようが興味ねぇし。
そう思ってたら。
ガラッ。
教室のドアが開いた。
「あー! やっぱ恥ずかしい!」
「でも可愛いじゃん!」
何人かの女子が戻ってくる。
白いメイド服。
セーラー服。
それを見た瞬間、教室に残ってた男子が一気に騒ぎ始めた。
「うわ、マジで着てんじゃん!」
「メイドやべー!」
「セーラーもいい!」
「お前らうるせぇな」
そう言いながら。
真澄もしっかり見てる。
「……真澄」
「ん?」
「優希に言っとくわ」
「はあ!? 待て待て待て!」
急にこっちを向く。
「見るくらいいいだろ!」
「知らね」
「お前だって水乃戻ってきたら絶対見るからな!」
「一緒にすんな」
「絶対見るって」
「見ねぇよ」
「じゃあ賭ける?」
「めんどくせぇ」
またドアが開く。
何人か戻ってくる。
でも。
水乃はいない。
「…………」
遅くね?
何してんだよ。
別に待ってるわけじゃねぇけど。
またドアを見る。
「早手」
「何」
真澄がニヤニヤしてる。
「さっきからドア見すぎ」
「見てねぇよ」
「見てる見てる」
「うるせぇ」
その時。
ガラッ。
また教室のドアが開いた。
何気なくそっちを見る。
「…………」
水乃だった。
パステルピンクのメイド服。
いつもの制服じゃなくて。
フリルのついたエプロンに、胸元には細いネクタイ。
スカートは思ってたより短い。
「…………」
やば。
普通に。
めちゃくちゃ似合ってる。
「お」
隣で真澄が声を上げる。
「水乃、ピンクじゃん」
「…………」
「早手?」
「何」
「いや、お前」
真澄が俺の顔を見る。
「めっちゃ見てんじゃん」
「見てねぇし」
「いや見てるって」
うるせぇ。
見てねぇわけねぇだろ。
水乃は恥ずかしいのか、スカートの裾を気にしながら教室に入ってくる。
そのたびに。
余計そこに目がいく。
……短すぎだろ。
あれで接客すんの?
知らねぇ男の前で?
「水乃、可愛いー!」
「ピンク似合ってる!」
先に戻ってた女子が水乃のところに集まっていく。
「やめてよー! 恥ずかしいって!」
顔、真っ赤。
「…………」
可愛い。
普通に可愛い。
でも。
本人に言えるわけねぇ。
「修原、めっちゃ似合ってんじゃん!」
クラスの男が水乃に声をかける。
「えっ、ほんと?」
「普通に可愛い!」
「ありがとう……」
「…………」
なんでそいつには笑うんだよ。
「早手」
「何」
「顔怖い」
「うるせぇ」
真澄が笑ってる。
その間にも。
「修原、文化祭ずっとそれ着んの?」
「接客中はそうだよ」
「マジ? 絶対見に行くわ」
「同じクラスでしょ!」
水乃が笑う。
周りの男も笑う。
「…………」
なんか。
腹立つ。
「神崎、お前幼馴染なんだろ?」
「……だから何」
「見慣れてんの? ああいう修原」
「見たことねぇよ」
「いいよなー。幼馴染」
「何が」
「俺だったら普通に好きになるわ」
「…………」
「てか修原、彼氏いねぇんだろ?」
ピクッと眉が動く。
「文化祭で告ろうかな」
「お前も? 俺もちょっと思ってた」
「マジで?」
「だって今日のあれ見たら――」
「…………」
何勝手に話進めてんだよ。
水乃は。
俺のもんなんだけど。
言えねぇけど。
「早手?」
真澄が俺を見る。
「お前マジで顔に出すぎ」
「……出してねぇよ」
「出てるって」
その時。
水乃がこっちを見た。
目が合う。
「…………」
「…………」
水乃が少しだけ恥ずかしそうに目を逸らす。
その顔見たら。
余計に目が離せなくなった。
「てか修原、脚細くね?」
後ろから聞こえた声に。
眉が動く。
「分かる。あのスカートやばい」
「文化祭あれで接客とか最高じゃん」
「…………」
うるせぇ。
「俺、絶対修原のとこ行こ」
「お前さっき告るとか言ってたじゃん」
「だから行くんだよ」
「マジで告んの?」
「いけるっしょ」
「…………」
無理。
絶対無理。
「早手?」
真澄がまた俺を見る。
「お前さっきから――」
「……うるせぇ」
水乃を見る。
まだ女子に囲まれてる。
笑ってる。
あんな短いスカートで。
男どもに見られて。
文化祭当日は知らねぇ奴にも見られる。
それ考えたら。
急に全部嫌になった。
椅子から立ち上がる。
「早手?」
そのまま水乃のところまで歩く。
「え?」
俺に気づいた水乃が顔を上げる。
「早手?」
「来い」
「え?」
返事を待たずに。
水乃の手を掴んだ。
「ちょっ、早手!?」
「いいから」
「どこ行くのっ?」
後ろからクラスの奴らの声が聞こえる。
でも。
どうでもいい。
そのまま教室を出る。
誰にも。
見せたくねぇ。
そんなことできるわけねぇのに。
今だけは。
水乃をあの教室に置いとくのが。
どうしても嫌だった。
