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ホームルームが終わると、教室の中が一気に騒がしくなった。
文化祭まで、あと少し。
このあとは、残れる人だけで準備を進めることになっている。
「今日残れる人ー!」
「俺、部活!」
「私も無理ー!」
あちこちから声が飛び交う。
私たちも今日は部活がある。
「水乃、行こ」
「うん」
優希と鞄を持って立ち上がった時。
「早手」
その声に、何となくそっちを見る。
木南さんだった。
「今日も少し、話せる?」
「……部活と自主練終わってからなら」
「うん。ありがとう」
それだけ。
それだけの会話だった。
でも。
“今日も”
その言葉だけが、耳に残った。
部活が始まれば。
早手はいつも通りだった。
走って。
声を出して。
練習が終わると、みんなが次々と体育館を出ていく。
「水乃、先帰るね」
「うん、お疲れ!」
「掃除頑張ってー」
「はーい」
今週は私が、練習後の掃除や片付けを担当する週。
優希を見送って。
私は倉庫からモップを取り出した。
体育館では、早手がもう自主練を始めている。
ボールが床を叩く音。
シュートがリングに当たる音。
本当に自主練してるんだ。
私も早く掃除終わらせよ。
モップを持って、コートに出ようとした時。
「水乃」
「ん?」
振り返ると、早手がボールを持ったままこっちを見ていた。
「掃除、しなくていいよ」
「え?」
「俺が最後にやっとくから、お前帰っていい」
「でも、今週私の担当だよ?」
「知ってる」
「だったら私がやるよ」
「俺がまだコート使ってるのに、お前まで終わるの待つ必要ないだろ」
「…………」
「自主練終わったら、そのまま俺が掃除しとくから」
「でも……」
「先週も優希に先帰ってもらって、俺が最後にやってたし」
「……そうなの?」
「うん」
先週は優希が掃除の担当だった。
私は真澄たちと先に帰っていたから、そんなこと知らなかった。
「でも、別に待てるよ」
「いいって」
「早手が終わるまで待ってる」
「何時に終わるか分かんねぇよ」
「それでもいいよ」
「水乃」
「今週くらい、一緒に帰りたい」
早手が私を見る。
「最近ずっと一緒に帰ってないじゃん」
「…………」
「私、待つの嫌じゃないし」
「俺の自主練に付き合わせて、お前まで毎日遅くなる必要ないだろ」
「でも、私がいいって言ってるじゃん」
「分かってるけど」
「じゃあいいじゃん」
「……今週も練習終わったら、すぐ優希と帰れ。な?」
「…………」
そこまで言われたら。
もう何も言えなかった。
「……分かった」
モップを元の場所に戻す。
――今日も少し、話せる?
ふと。
さっきの木南さんの声が頭に浮かんだ。
「…………」
私は鞄を持って、体育館を出た。
