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文化祭まで、あと1週間。
教室の後ろには段ボールや画用紙が積まれて、休み時間になるたびに誰かが準備を始めるようになった。
「これ、もうちょい右じゃない?」
「えー、こっちの方がよくない?」
「どっちでもよくね?」
「宗太は黙ってて」
「なんで!?」
優希の一言に、みんなが笑う。
私たち接客組は、当日使うメニュー表や店内の飾りを作っていた。
「水乃、それ取って」
「これ?」
「違う。その下」
「最初から言ってよ」
「分かると思った」
慎に言われて、画用紙の束を渡す。
「てか慎、字汚くない?」
「は?」
「これ何て書いてるの?」
「オムライス」
「絶対読めない」
「読めるだろ!」
「無理無理」
また笑い声が上がる。
なんだか久しぶりに、何も考えずに笑った気がした。
「水乃」
「ん?」
慎が私の顔を見て、ふっと笑う。
「頬、なんかついてる」
「え、どこ?」
「そっちじゃない。逆」
「こっち?」
「違うって」
「分かんない!」
「じっとしてろって」
慎が笑いながら、私の頬に手を伸ばす。
その時。
「慎、お前そっち終わってんなら、こっち手伝えよ」
聞き慣れた声がした。
振り返ると、少し離れたところに早手が立っていた。
手には、呼び込み用の看板。
「俺、接客担当なんだけど」
「知ってる。でもこっち人数足りねぇんだよ。ちょっとくらいいいだろ」
「真澄いるじゃん」
「真澄は別のやつやってんの。いいから来いって」
「はいはい。分かったよ」
慎が立ち上がる。
早手の横を通り過ぎる時。
「お前さあ、もうちょい隠せば?」
「……何をだよ」
「分かってないならいいわ」
「なんなんだよ、お前」
慎はニヤニヤしながら、そのまま向こうへ行ってしまった。
「…………」
早手がこっちを見る。
目が合った。
そのまま私のところまで歩いてきて。
「え、なに?」
何も言わないまま、早手の手が伸びてきた。
「……っ」
親指が、私の頬に触れる。
そのまま、軽く擦られた。
「…………」
突然のことに動けないでいると。
早手は指先についた白い絵の具を見て。
「取れた」
「……あ」
さっき慎が取ろうとしてたやつ。
「ありがと……」
「ん」
何事もなかったみたいに、早手が離れていく。
「じゃ、俺戻るわ。お前もちゃんとやれよ」
「やってるもん!」
「慎と喋ってばっかだったじゃん」
「ちゃんと作ってたし!」
「はいはい」
「なにそれ!」
少し笑って、早手は慎たちのところへ戻っていった。
私は、さっき触れられた頬にそっと手を当てる。
「…………」
いつもの早手だ。
こういう時は。
本当に、何も変わってない。
「水乃ー!」
「なに?」
「また手止まってる!」
優希に言われて、慌てて作業に戻る。
「ごめん!」
笑い声の中で、また手を動かす。
楽しい。
文化祭の準備も。
みんなでこうして騒ぐのも。
早手だって、いつもと変わらない。
だから。
きっと大丈夫。
そう思っていたかった。
