帰りのホームルームが終わって、教室の中が一気に騒がしくなる。
部活へ向かう人。
友達と帰る準備をする人。
まだ席に座ったまま話している人。
私も机の中から必要なものを取り出して、鞄に入れていく。
「水乃ー、先行くよ」
少し離れたところから優希の声が聞こえた。
「あ、待ってー!」
急いで鞄を閉めようとして。
ふと、窓側を見る。
早手。
新しい席に座ったまま、鞄の中を探している。
その隣には木南さん。
木南さんもまだ席に座ったままで、何人かのクラスメイトと話していた。
「…………」
何してるんだろ。
「優希、ごめん! ちょっと先行ってて!」
「分かった。早く来なさいよー」
「うん!」
優希が教室を出ていく。
私は鞄を持って、そのまま早手のところへ向かった。
「早手」
「ん?」
「何してるの?」
「探しもん」
「何?」
「イヤホン」
「なくしたの?」
「なくしてねぇよ。どっか入ってる」
「それ、なくしたって言うんじゃないの?」
「うるせ」
早手が鞄の中を探し続ける。
「どこに入れたの?」
「覚えてねぇ」
「じゃあなくしてるじゃん」
「ある」
「どこに?」
「それ探してんだろ」
「ふふっ」
早手らしい。
「昨日使った?」
「使った」
「じゃあ制服のポケットは?」
「見た」
「鞄の横は?」
「ない」
「小さいところは?」
「…………」
早手の手が止まる。
「見てないの?」
「…………」
「早手?」
「うるせ」
鞄の小さなポケットを開ける。
「あ」
イヤホン。
「あるじゃん!」
「…………」
「ふふっ」
「笑うな」
「だって私が見つけたようなもんじゃん」
「俺が見つけた」
「私が小さいところって言ったからでしょー?」
「はいはい」
「ありがとうは?」
「何で」
「見つけてあげたから!」
「自分で見つけただろ」
「もう!」
思わず早手の腕を軽く叩く。
「痛ぇ」
「痛くないでしょ!」
そんな私たちのやり取りに。
「ふふっ」
小さな笑い声が聞こえた。
振り返る。
木南さん。
「ごめん。なんか2人、本当に仲いいんだなって思って」
「あ……」
なんだか少し恥ずかしくなる。
「そう?」
「うん」
木南さんが笑う。
「修原さん、早手のこと何でも分かるんだね」
「何でもは分かんないよー」
「でも、イヤホン見つけたじゃん」
「これは早手が分かりやすすぎるだけ」
「おい」
「だって本当でしょ?」
「知らね」
木南さんがまた笑う。
「幼なじみなんだっけ?」
「うん。小さい頃からずっと一緒だよ」
「そっか」
木南さんが私と早手を交互に見る。
「だからこんなに仲いいんだね」
「……まあ、長いからねー」
本当は。
幼なじみだけじゃなくて。
今は、彼氏なんだけど。
それはまだ、みんなには内緒。
もちろん木南さんも知らない。
早手がイヤホンを鞄にしまって立ち上がる。
私も鞄を持ち直して。
まだ席に座っている木南さんを見る。
「木南さんは帰らないの?」
「んー……」
木南さんが少しだけ考える。
「私は、まだ残るかなぁ……」
「そうなんだ」
「うん」
「何かするの?」
何となく聞いただけだった。
だけど。
「…………」
木南さんは、すぐには答えなかった。
「ちょっとね」
そう言って、笑う。
「そっか」
私はそれ以上、特に気にしなかった。
忘れ物でもあるのかな。
それとも、誰かを待ってるのかもしれない。
「じゃあ、また明日ね!」
「うん。また明日」
「行くぞ、水乃」
「待ってー」
早手のあとを追って、教室を出る。
廊下には、部活へ向かう生徒たちがまだたくさん残っていた。
「早手、歩くの早いよー」
「お前が遅い」
「待ってくれてもいいじゃん」
「今待ってんじゃん」
「止まってないでしょ!」
少しだけ歩く速度を上げて、早手の横に追いつく。
だけど。
早手はさっきから、少し静かだった。
「……どうしたの?」
「何が」
「なんか静か」
「別に」
「そう?」
「ん」
早手が1度だけ、後ろを見る。
さっきまでいた教室の方。
「…………」
「早手?」
「何でもねぇよ」
そう言って、また前を向いた。
「変なの」
「うるせ」
私はそれ以上気にせず、早手の隣を歩く。
「ねぇ、今日一緒に帰れる?」
「今日?」
「うん」
「……今日、俺残る」
「え?」
「部活終わったあと、自主練する」
「今日、自主練するの?」
「ん」
「どうして?」
「補習で練習できなかった分、ちょっとやっときたい」
「あー……」
そういえば、1週間ずっと補習で部活に来るのが遅くなってたもんね。
「部活終わってからも練習するの?」
「ん」
「疲れない?」
「別に」
「早手って、バスケのことになると真面目だよね」
「何だよ、それ」
「だって宿題は出さないのに」
「…………」
早手がこっちを見る。
「何?」
「お前、喧嘩売ってる?」
「売ってないよー」
「絶対売ってんだろ」
「褒めてるの!」
「どこが」
思わず笑う。
階段を下りながら、私はもう1度早手を見る。
「じゃあ今日、帰り待ってるよ」
「は?」
「自主練終わるまで」
「いい」
「なんで?」
「遅くなるから」
「どのくらい?」
「知らね」
「じゃあ待てるかもしれないじゃん」
「待たなくていいって」
「でも一緒に帰りたい」
言ってから、ちょっと恥ずかしくなった。
早手を見ると、黙ってこっちを見ている。
「な、なに?」
「別に」
「その顔なに」
「何でもねぇよ」
「じゃあ待ってていい?」
「だめ」
「なんでー!」
「遅くなるって言ってんだろ」
「どのくらい?」
「21時過ぎるかもしんねぇ」
「えっ」
思っていたより、ずっと遅い。
「そんなに?」
「ん。気が済むまでやるつもり」
さすがにそこまで学校で待っているわけにはいかない。
「分かったぁ……」
「帰れ」
「その言い方!」
「じゃあ、ちゃんと帰ってください」
「なんで敬語なの?」
「めんどくせぇ」
「もう!」
早手が少し笑う。
「あ、じゃあ」
「何」
「帰ったら連絡してね!」
「ん」
「絶対だよ?」
「分かったって」
「忘れないでね?」
「忘れねぇよ」
「約束ね」
「はいはい」
「はいは1回!」
「はい」
「ふふっ」
階段を下りきる。
もう体育館はすぐそこ。
「頑張ってね、自主練」
「ん」
「でも無理しすぎないでね」
「分かってる」
「怪我もしないでね」
「お前は俺の母親かよ」
「心配してるの!」
「分かったって」
早手が私の頭を軽く押す。
「わっ」
「ほら、行くぞ」
「髪ぐちゃぐちゃになるー!」
「なってねぇよ」
「なった!」
「知らね」
少し先に、優希たちの姿が見えた。
「水乃ー! 遅い!」
「ごめーん!」
優希に手を振ってから、隣の早手を見る。
「じゃあ、帰ったら連絡ね!」
「分かってるって」
「約束だからねー!」
「はいはい」
「また2回言った!」
笑いながら、私は優希のところへ走った。
部活へ向かう人。
友達と帰る準備をする人。
まだ席に座ったまま話している人。
私も机の中から必要なものを取り出して、鞄に入れていく。
「水乃ー、先行くよ」
少し離れたところから優希の声が聞こえた。
「あ、待ってー!」
急いで鞄を閉めようとして。
ふと、窓側を見る。
早手。
新しい席に座ったまま、鞄の中を探している。
その隣には木南さん。
木南さんもまだ席に座ったままで、何人かのクラスメイトと話していた。
「…………」
何してるんだろ。
「優希、ごめん! ちょっと先行ってて!」
「分かった。早く来なさいよー」
「うん!」
優希が教室を出ていく。
私は鞄を持って、そのまま早手のところへ向かった。
「早手」
「ん?」
「何してるの?」
「探しもん」
「何?」
「イヤホン」
「なくしたの?」
「なくしてねぇよ。どっか入ってる」
「それ、なくしたって言うんじゃないの?」
「うるせ」
早手が鞄の中を探し続ける。
「どこに入れたの?」
「覚えてねぇ」
「じゃあなくしてるじゃん」
「ある」
「どこに?」
「それ探してんだろ」
「ふふっ」
早手らしい。
「昨日使った?」
「使った」
「じゃあ制服のポケットは?」
「見た」
「鞄の横は?」
「ない」
「小さいところは?」
「…………」
早手の手が止まる。
「見てないの?」
「…………」
「早手?」
「うるせ」
鞄の小さなポケットを開ける。
「あ」
イヤホン。
「あるじゃん!」
「…………」
「ふふっ」
「笑うな」
「だって私が見つけたようなもんじゃん」
「俺が見つけた」
「私が小さいところって言ったからでしょー?」
「はいはい」
「ありがとうは?」
「何で」
「見つけてあげたから!」
「自分で見つけただろ」
「もう!」
思わず早手の腕を軽く叩く。
「痛ぇ」
「痛くないでしょ!」
そんな私たちのやり取りに。
「ふふっ」
小さな笑い声が聞こえた。
振り返る。
木南さん。
「ごめん。なんか2人、本当に仲いいんだなって思って」
「あ……」
なんだか少し恥ずかしくなる。
「そう?」
「うん」
木南さんが笑う。
「修原さん、早手のこと何でも分かるんだね」
「何でもは分かんないよー」
「でも、イヤホン見つけたじゃん」
「これは早手が分かりやすすぎるだけ」
「おい」
「だって本当でしょ?」
「知らね」
木南さんがまた笑う。
「幼なじみなんだっけ?」
「うん。小さい頃からずっと一緒だよ」
「そっか」
木南さんが私と早手を交互に見る。
「だからこんなに仲いいんだね」
「……まあ、長いからねー」
本当は。
幼なじみだけじゃなくて。
今は、彼氏なんだけど。
それはまだ、みんなには内緒。
もちろん木南さんも知らない。
早手がイヤホンを鞄にしまって立ち上がる。
私も鞄を持ち直して。
まだ席に座っている木南さんを見る。
「木南さんは帰らないの?」
「んー……」
木南さんが少しだけ考える。
「私は、まだ残るかなぁ……」
「そうなんだ」
「うん」
「何かするの?」
何となく聞いただけだった。
だけど。
「…………」
木南さんは、すぐには答えなかった。
「ちょっとね」
そう言って、笑う。
「そっか」
私はそれ以上、特に気にしなかった。
忘れ物でもあるのかな。
それとも、誰かを待ってるのかもしれない。
「じゃあ、また明日ね!」
「うん。また明日」
「行くぞ、水乃」
「待ってー」
早手のあとを追って、教室を出る。
廊下には、部活へ向かう生徒たちがまだたくさん残っていた。
「早手、歩くの早いよー」
「お前が遅い」
「待ってくれてもいいじゃん」
「今待ってんじゃん」
「止まってないでしょ!」
少しだけ歩く速度を上げて、早手の横に追いつく。
だけど。
早手はさっきから、少し静かだった。
「……どうしたの?」
「何が」
「なんか静か」
「別に」
「そう?」
「ん」
早手が1度だけ、後ろを見る。
さっきまでいた教室の方。
「…………」
「早手?」
「何でもねぇよ」
そう言って、また前を向いた。
「変なの」
「うるせ」
私はそれ以上気にせず、早手の隣を歩く。
「ねぇ、今日一緒に帰れる?」
「今日?」
「うん」
「……今日、俺残る」
「え?」
「部活終わったあと、自主練する」
「今日、自主練するの?」
「ん」
「どうして?」
「補習で練習できなかった分、ちょっとやっときたい」
「あー……」
そういえば、1週間ずっと補習で部活に来るのが遅くなってたもんね。
「部活終わってからも練習するの?」
「ん」
「疲れない?」
「別に」
「早手って、バスケのことになると真面目だよね」
「何だよ、それ」
「だって宿題は出さないのに」
「…………」
早手がこっちを見る。
「何?」
「お前、喧嘩売ってる?」
「売ってないよー」
「絶対売ってんだろ」
「褒めてるの!」
「どこが」
思わず笑う。
階段を下りながら、私はもう1度早手を見る。
「じゃあ今日、帰り待ってるよ」
「は?」
「自主練終わるまで」
「いい」
「なんで?」
「遅くなるから」
「どのくらい?」
「知らね」
「じゃあ待てるかもしれないじゃん」
「待たなくていいって」
「でも一緒に帰りたい」
言ってから、ちょっと恥ずかしくなった。
早手を見ると、黙ってこっちを見ている。
「な、なに?」
「別に」
「その顔なに」
「何でもねぇよ」
「じゃあ待ってていい?」
「だめ」
「なんでー!」
「遅くなるって言ってんだろ」
「どのくらい?」
「21時過ぎるかもしんねぇ」
「えっ」
思っていたより、ずっと遅い。
「そんなに?」
「ん。気が済むまでやるつもり」
さすがにそこまで学校で待っているわけにはいかない。
「分かったぁ……」
「帰れ」
「その言い方!」
「じゃあ、ちゃんと帰ってください」
「なんで敬語なの?」
「めんどくせぇ」
「もう!」
早手が少し笑う。
「あ、じゃあ」
「何」
「帰ったら連絡してね!」
「ん」
「絶対だよ?」
「分かったって」
「忘れないでね?」
「忘れねぇよ」
「約束ね」
「はいはい」
「はいは1回!」
「はい」
「ふふっ」
階段を下りきる。
もう体育館はすぐそこ。
「頑張ってね、自主練」
「ん」
「でも無理しすぎないでね」
「分かってる」
「怪我もしないでね」
「お前は俺の母親かよ」
「心配してるの!」
「分かったって」
早手が私の頭を軽く押す。
「わっ」
「ほら、行くぞ」
「髪ぐちゃぐちゃになるー!」
「なってねぇよ」
「なった!」
「知らね」
少し先に、優希たちの姿が見えた。
「水乃ー! 遅い!」
「ごめーん!」
優希に手を振ってから、隣の早手を見る。
「じゃあ、帰ったら連絡ね!」
「分かってるって」
「約束だからねー!」
「はいはい」
「また2回言った!」
笑いながら、私は優希のところへ走った。
