席替えをしてから、数日が経った。
最初は優希と真澄が遠くなったのが寂しかったけど、新しい席にも少しずつ慣れてきた。
隣は相変わらず宗太だし。
前には慎がいるし。
なんだかんだ、前より騒がしくなった気もする。
「じゃあ、このプリント。授業中に全部終わらなかった人は宿題ねー」
英語の先生がそう言った瞬間。
「えぇー」
教室のあちこちから声が上がった。
「文句言わない。来週小テストもするからね」
「先生、それ今初めて聞いた!」
慎が声を上げる。
「今初めて言ったからね」
「最悪!」
教室から笑い声が起こる。
「神崎くんと桜乃くんは特に頑張ってくださいね」
「なんで俺まで!?」
慎が振り返る。
「早手と一緒にされてんじゃん」
私が笑うと、慎がむっとした顔をした。
「水乃も人のこと言えねぇだろ」
「私は慎よりできるもん」
「どこからその自信出てくんだよ」
「慎よりはできる!」
「比較対象、俺だけかよ!」
隣で宗太が笑っている。
「2人とも大して変わんねぇだろ」
「宗太は黙ってて!」
「なんで俺が怒られんの?」
また笑い声が聞こえて、先生がこっちを見る。
「そこ、楽しそうだけどプリント進んでます?」
「進んでます!」
私と慎が同時に答える。
「じゃあ修原さん、今のところ訳してみて」
「えっ」
教室がまた笑いに包まれた。
「……慎のせいだからね」
「なんで俺!?」
なんとか先生に教えてもらいながら答えて、私はもう1度プリントに視線を落とした。
「……分かんない」
小さく呟く。
英語って、なんでこんなに同じような単語がいっぱいあるんだろう。
「水乃、そこ違う」
隣から宗太が言う。
「え?」
「その単語、そっちじゃない」
「あ、ほんとだ」
「ちゃんと見ろよ」
「見てるよー」
消しゴムで答えを消して、もう1度書き直す。
「……これで合ってる?」
「多分」
「多分なの?」
「俺に聞くなよ」
「宗太が言ってきたんじゃん!」
そんなことを言いながら、ふと顔を上げた。
「…………」
少し離れた窓側の席。
早手がプリントを見ながら、眉間にしわを寄せている。
……絶対分かってない顔。
思わず笑いそうになる。
すると。
「ここ、違うよ」
隣から木南さんが早手のプリントを指さした。
「ん?」
「こっち。これは過去形だから」
「……どれ」
「ここ」
木南さんが早手のプリントを覗き込みながら、何か説明している。
早手は面倒くさそうな顔をしながらも、ちゃんと聞いていた。
「だから、こっちを使うの」
「……あー」
「分かった?」
「多分」
「多分って」
木南さんが小さく笑う。
早手もプリントに何かを書き込みながら、そのまま普通に話している。
「…………」
なんだか、不思議。
早手って、女の子とあんなふうに普通に話すんだ。
もちろん、クラスの女の子と全然話さないわけじゃない。
必要なことなら普通に話すし、聞かれたら答えることもある。
でも。
木南さんとは最近、前よりよく話してる気がする。
「水乃」
「ん?」
目の前から声がして、顔を戻す。
慎がこっちを見ていた。
「ここ何?」
「え?」
慎がプリントを見せてくる。
「この問題」
「…………」
見る。
分からない。
「……宗太」
「俺に回すな」
「だって分かんないんだもん」
「水乃に聞いた俺がバカだった」
「慎ひどい!」
「いや、これは俺が悪かった」
「もっとひどい!」
宗太が隣で笑っている。
「宗太、分かる?」
「そこ? 多分これ」
宗太が慎のプリントを指さす。
「あー、なるほど」
「え、なんで分かったの?」
「水乃よりは英語できるから」
「もう!」
結局3人でプリントを覗き込みながら、ああでもない、こうでもないと言い合う。
しばらくして、授業終了のチャイムが鳴った。
「はい、今日はここまで。終わってない人は忘れずにやってきてくださいね」
先生が教室を出ていく。
「終わってねぇ……」
慎が机に突っ伏した。
「私もー……」
「俺あと2問」
「宗太ずるい!」
「何がずるいんだよ」
「ねぇ、見せて?」
「嫌だよ。自分でやれ」
「ケチー」
そんな話をしていると、向こうから木南さんの声が聞こえた。
何気なく見る。
「だからそこ、さっきと同じ」
「……分かんねぇ」
「早手、ちゃんと聞いてた?」
「聞いてた」
「絶対聞いてないでしょ」
木南さんが笑っている。
早手は嫌そうな顔をしながら、またプリントを見ていた。
「…………」
やっぱり。
前より、仲良くなったよね。
席が隣になったから話す機会が増えただけ。
そう思えば、別に何も変なことじゃない。
「水乃?」
「ん?」
慎に呼ばれて振り返る。
「何見てんの?」
「ううん。なんでもないよ」
もう1度、自分のプリントを見る。
木南さんは英語が得意なんだろうな。
早手は英語が苦手だし、ちょうどいいのかも。
「よし、宗太」
「嫌な予感しかしねぇ」
「私にも教えて!」
「なんでだよ」
「お願い!」
「慎もいるじゃん」
「俺も教えて」
「増えんな!」
思わず笑ってしまう。
結局、私たちの周りはいつも通り騒がしくて。
少し離れたところでは、早手と木南さんがまだプリントを見ていた。
席が隣になったから。
きっと、それだけ。
この時の私は、そう思っていた。
最初は優希と真澄が遠くなったのが寂しかったけど、新しい席にも少しずつ慣れてきた。
隣は相変わらず宗太だし。
前には慎がいるし。
なんだかんだ、前より騒がしくなった気もする。
「じゃあ、このプリント。授業中に全部終わらなかった人は宿題ねー」
英語の先生がそう言った瞬間。
「えぇー」
教室のあちこちから声が上がった。
「文句言わない。来週小テストもするからね」
「先生、それ今初めて聞いた!」
慎が声を上げる。
「今初めて言ったからね」
「最悪!」
教室から笑い声が起こる。
「神崎くんと桜乃くんは特に頑張ってくださいね」
「なんで俺まで!?」
慎が振り返る。
「早手と一緒にされてんじゃん」
私が笑うと、慎がむっとした顔をした。
「水乃も人のこと言えねぇだろ」
「私は慎よりできるもん」
「どこからその自信出てくんだよ」
「慎よりはできる!」
「比較対象、俺だけかよ!」
隣で宗太が笑っている。
「2人とも大して変わんねぇだろ」
「宗太は黙ってて!」
「なんで俺が怒られんの?」
また笑い声が聞こえて、先生がこっちを見る。
「そこ、楽しそうだけどプリント進んでます?」
「進んでます!」
私と慎が同時に答える。
「じゃあ修原さん、今のところ訳してみて」
「えっ」
教室がまた笑いに包まれた。
「……慎のせいだからね」
「なんで俺!?」
なんとか先生に教えてもらいながら答えて、私はもう1度プリントに視線を落とした。
「……分かんない」
小さく呟く。
英語って、なんでこんなに同じような単語がいっぱいあるんだろう。
「水乃、そこ違う」
隣から宗太が言う。
「え?」
「その単語、そっちじゃない」
「あ、ほんとだ」
「ちゃんと見ろよ」
「見てるよー」
消しゴムで答えを消して、もう1度書き直す。
「……これで合ってる?」
「多分」
「多分なの?」
「俺に聞くなよ」
「宗太が言ってきたんじゃん!」
そんなことを言いながら、ふと顔を上げた。
「…………」
少し離れた窓側の席。
早手がプリントを見ながら、眉間にしわを寄せている。
……絶対分かってない顔。
思わず笑いそうになる。
すると。
「ここ、違うよ」
隣から木南さんが早手のプリントを指さした。
「ん?」
「こっち。これは過去形だから」
「……どれ」
「ここ」
木南さんが早手のプリントを覗き込みながら、何か説明している。
早手は面倒くさそうな顔をしながらも、ちゃんと聞いていた。
「だから、こっちを使うの」
「……あー」
「分かった?」
「多分」
「多分って」
木南さんが小さく笑う。
早手もプリントに何かを書き込みながら、そのまま普通に話している。
「…………」
なんだか、不思議。
早手って、女の子とあんなふうに普通に話すんだ。
もちろん、クラスの女の子と全然話さないわけじゃない。
必要なことなら普通に話すし、聞かれたら答えることもある。
でも。
木南さんとは最近、前よりよく話してる気がする。
「水乃」
「ん?」
目の前から声がして、顔を戻す。
慎がこっちを見ていた。
「ここ何?」
「え?」
慎がプリントを見せてくる。
「この問題」
「…………」
見る。
分からない。
「……宗太」
「俺に回すな」
「だって分かんないんだもん」
「水乃に聞いた俺がバカだった」
「慎ひどい!」
「いや、これは俺が悪かった」
「もっとひどい!」
宗太が隣で笑っている。
「宗太、分かる?」
「そこ? 多分これ」
宗太が慎のプリントを指さす。
「あー、なるほど」
「え、なんで分かったの?」
「水乃よりは英語できるから」
「もう!」
結局3人でプリントを覗き込みながら、ああでもない、こうでもないと言い合う。
しばらくして、授業終了のチャイムが鳴った。
「はい、今日はここまで。終わってない人は忘れずにやってきてくださいね」
先生が教室を出ていく。
「終わってねぇ……」
慎が机に突っ伏した。
「私もー……」
「俺あと2問」
「宗太ずるい!」
「何がずるいんだよ」
「ねぇ、見せて?」
「嫌だよ。自分でやれ」
「ケチー」
そんな話をしていると、向こうから木南さんの声が聞こえた。
何気なく見る。
「だからそこ、さっきと同じ」
「……分かんねぇ」
「早手、ちゃんと聞いてた?」
「聞いてた」
「絶対聞いてないでしょ」
木南さんが笑っている。
早手は嫌そうな顔をしながら、またプリントを見ていた。
「…………」
やっぱり。
前より、仲良くなったよね。
席が隣になったから話す機会が増えただけ。
そう思えば、別に何も変なことじゃない。
「水乃?」
「ん?」
慎に呼ばれて振り返る。
「何見てんの?」
「ううん。なんでもないよ」
もう1度、自分のプリントを見る。
木南さんは英語が得意なんだろうな。
早手は英語が苦手だし、ちょうどいいのかも。
「よし、宗太」
「嫌な予感しかしねぇ」
「私にも教えて!」
「なんでだよ」
「お願い!」
「慎もいるじゃん」
「俺も教えて」
「増えんな!」
思わず笑ってしまう。
結局、私たちの周りはいつも通り騒がしくて。
少し離れたところでは、早手と木南さんがまだプリントを見ていた。
席が隣になったから。
きっと、それだけ。
この時の私は、そう思っていた。
