「はーい、今日は席替えします」
帰りのホームルームで先生がそう言った瞬間、教室のあちこちから声が上がった。
「やったー!」
「先生、くじ!?」
「窓側がいい!」
「前だけは嫌ー!」
一気に騒がしくなった教室を見て、先生が笑う。
「はいはい、そんなに騒がないの。今回もくじ引きだから、文句を言っても引き直しはしませんよー」
席替えかぁ。
今の席、結構好きだったんだけどな。
隣は宗太だし、近くには優希も真澄もいる。
それに。
ちらっと早手を見る。
今より遠くなったら、ちょっと嫌かも。
「水乃」
「ん?」
隣から宗太に呼ばれる。
「何ぼーっとしてんの」
「ぼーっとしてないよ」
「早手見てた?」
「見てない!」
「声でけぇよ」
「宗太が変なこと言うからでしょ!」
笑っている宗太の腕を軽く叩く。
「はい、そこ。席替えする前から騒がない」
先生に注意されて、慌てて前を向いた。
「宗太のせいだからね」
「はいはい」
「もう!」
前から順番にくじを引いていく。
優希、真澄、慎。
みんな次々と番号を確認して、黒板の座席表を見ている。
「次、修原さん」
「はーい!」
前へ行って、箱の中に手を入れる。
「これ!」
引いた紙を開く。
「……21番」
黒板を見る。
真ん中より少し後ろ。
前でもないし、端でもない。
「よかったぁー」
思わず声が漏れる。
「何がよかったの?」
先生に笑われる。
「1番前じゃなかったので!」
「修原さんは前の方が授業に集中できると思うけどなー」
「集中してます!」
「本当に?」
「してますー!」
教室から笑い声が上がる。
自分の席に戻りながら、新しい席の周りを確認する。
優希は……遠い。
真澄も結構離れてる。
「えぇー……」
思わず声が出る。
優希と離れちゃった。
「水乃、どうだった?」
慎が聞いてくる。
「21番。優希と遠いー」
「俺20」
「え?」
もう1回座席表を見る。
「慎、前じゃん!」
「マジ?」
「うん! 私の前!」
「お、いいじゃん」
「授業中寝たら起こしてあげるね」
「俺が寝る前提やめろ」
「寝るでしょ?」
「……まあ、寝るかも」
「寝るんじゃん!」
そんな話をしている間にも、くじ引きは進んでいく。
「葉山くん」
宗太が前へ行く。
「俺、どこでもいいわ」
そう言いながら引いた紙を見る。
「……22」
「え」
私が先に反応した。
「嘘」
宗太も黒板を見る。
21番。
22番。
「…………」
「また隣!?」
思わず2人同時に声を上げる。
教室から笑いが起こった。
「なんでだよ!」
宗太が笑う。
「こっちのセリフだよー!」
「お前どんだけ俺の隣好きなん」
「好きじゃない!」
「運命じゃん」
「やだ!」
「そこまで言う?」
「だって席替えした意味ないもん!」
「俺もだよ!」
先生まで笑っている。
「はいはい、くじですから諦めてください」
「先生、交換!」
「だめです」
「即答!」
宗太が笑いながら戻ってくる。
「またよろしく、水乃」
「仕方ないからよろしくしてあげる」
「何で上からなんだよ」
「ふふっ」
でも。
宗太なら気を使わなくていいし、なんだかんだ楽しいから。
まあ、いっか。
「次、神崎くん」
その名前に、自然と顔が上がる。
早手が面倒くさそうに前へ行って、箱から紙を1枚取った。
「……35」
黒板を見る。
遠い。
「…………」
窓側の後ろの方。
私とは結構離れてる。
……遠いなぁ。
まあ、授業中に話すわけじゃないし。
休み時間になれば普通に話せるし。
そう思いながら座席表を見ていると。
「次、木南さん」
「はい」
木南さんが前へ出る。
紙を引いて。
「36番です」
「…………」
え。
もう1回、黒板を見る。
35番。
36番。
早手の、隣。
「…………」
ほんの一瞬だけ、胸の奥が変な感じになった。
木南さんが早手を名前で呼ぶようになったことを思い出す。
最近は、たまにバスケ部も見に来るようになって。
別に。
だからって何かあるわけじゃない。
ただ隣の席になっただけ。
くじ引きなんだから、誰が誰の隣になったっておかしくない。
「水乃」
「え?」
前にいる慎が振り返る。
「何その顔」
「どんな顔?」
「なんかぼーっとしてた」
「してないよ」
「また早手見てたんじゃね?」
「見てない!」
「だから声でけぇって」
「慎まで変なこと言うからでしょ!」
慎が笑う。
その向こうを見ると、優希と目が合った。
遠い。
優希が口だけ動かす。
『遠いね』
私も口だけで返す。
『ねー!』
真澄も離れたところで新しい席を確認していた。
みんなバラバラになっちゃったな。
「じゃあ、今から机移動してねー」
先生の声と同時に、教室中で机を動かす音が響き始めた。
私も荷物を持って、新しい席へ向かう。
「水乃、そこ?」
「うん」
宗太が隣に机を運んでくる。
「マジで何も変わんねぇ」
「ほんとだよー」
「でも前、慎じゃん」
「最悪じゃね?」
前の席に座った慎が振り返る。
「聞こえてるよ!」
「水乃が言った」
「宗太!」
「俺じゃねぇし!」
「2人ともうるせぇ!」
「慎が1番うるさいよー!」
早速騒がしい。
「……ふふっ」
なんだかんだ、この席も楽しそう。
そう思いながら、ふと後ろを見る。
窓側の後ろ。
早手が机を動かしている。
その隣に、木南さん。
「早手、ここ?」
「ん」
「隣だね」
「みたいだな」
それだけ。
本当に普通の会話。
「…………」
分かってる。
席が隣になっただけ。
それなのに、なぜか少しだけ気になってしまう。
「水乃」
「わっ!」
急に宗太の顔が視界に入る。
「な、何!?」
「さっきから後ろ見すぎ」
「見てないよ!」
「いや見てた」
「見てませんー!」
「はいはい」
「その言い方やめて!」
宗太を軽く叩く。
「痛っ」
「宗太が変なこと言うから!」
「俺何も変なこと言ってねぇだろ」
「言った!」
また言い合っていると。
なんとなく視線を感じた。
顔を上げる。
「…………」
早手。
離れた席から、こっちを見ている。
「……?」
目が合うと、早手の視線が私の隣へ動いた。
宗太。
それからまた、私を見る。
「…………」
あ。
もしかして。
早手も、宗太がまた私の隣なの気にしてる?
そう思ったら。
さっきまで胸の奥にあった小さなモヤモヤが、少しだけ軽くなった。
「何ニヤニヤしてんの?」
宗太が言う。
「してないよー」
「してる」
「してません!」
前には慎。
隣には、まさかのまた宗太。
優希と真澄とは離れちゃって。
そして早手の隣には、木南さん。
今までとは全然違う席になった。
この時の私はまだ。
この席替えが、これから少しずつ私たちの距離を変えていくことなんて、考えてもいなかった。
帰りのホームルームで先生がそう言った瞬間、教室のあちこちから声が上がった。
「やったー!」
「先生、くじ!?」
「窓側がいい!」
「前だけは嫌ー!」
一気に騒がしくなった教室を見て、先生が笑う。
「はいはい、そんなに騒がないの。今回もくじ引きだから、文句を言っても引き直しはしませんよー」
席替えかぁ。
今の席、結構好きだったんだけどな。
隣は宗太だし、近くには優希も真澄もいる。
それに。
ちらっと早手を見る。
今より遠くなったら、ちょっと嫌かも。
「水乃」
「ん?」
隣から宗太に呼ばれる。
「何ぼーっとしてんの」
「ぼーっとしてないよ」
「早手見てた?」
「見てない!」
「声でけぇよ」
「宗太が変なこと言うからでしょ!」
笑っている宗太の腕を軽く叩く。
「はい、そこ。席替えする前から騒がない」
先生に注意されて、慌てて前を向いた。
「宗太のせいだからね」
「はいはい」
「もう!」
前から順番にくじを引いていく。
優希、真澄、慎。
みんな次々と番号を確認して、黒板の座席表を見ている。
「次、修原さん」
「はーい!」
前へ行って、箱の中に手を入れる。
「これ!」
引いた紙を開く。
「……21番」
黒板を見る。
真ん中より少し後ろ。
前でもないし、端でもない。
「よかったぁー」
思わず声が漏れる。
「何がよかったの?」
先生に笑われる。
「1番前じゃなかったので!」
「修原さんは前の方が授業に集中できると思うけどなー」
「集中してます!」
「本当に?」
「してますー!」
教室から笑い声が上がる。
自分の席に戻りながら、新しい席の周りを確認する。
優希は……遠い。
真澄も結構離れてる。
「えぇー……」
思わず声が出る。
優希と離れちゃった。
「水乃、どうだった?」
慎が聞いてくる。
「21番。優希と遠いー」
「俺20」
「え?」
もう1回座席表を見る。
「慎、前じゃん!」
「マジ?」
「うん! 私の前!」
「お、いいじゃん」
「授業中寝たら起こしてあげるね」
「俺が寝る前提やめろ」
「寝るでしょ?」
「……まあ、寝るかも」
「寝るんじゃん!」
そんな話をしている間にも、くじ引きは進んでいく。
「葉山くん」
宗太が前へ行く。
「俺、どこでもいいわ」
そう言いながら引いた紙を見る。
「……22」
「え」
私が先に反応した。
「嘘」
宗太も黒板を見る。
21番。
22番。
「…………」
「また隣!?」
思わず2人同時に声を上げる。
教室から笑いが起こった。
「なんでだよ!」
宗太が笑う。
「こっちのセリフだよー!」
「お前どんだけ俺の隣好きなん」
「好きじゃない!」
「運命じゃん」
「やだ!」
「そこまで言う?」
「だって席替えした意味ないもん!」
「俺もだよ!」
先生まで笑っている。
「はいはい、くじですから諦めてください」
「先生、交換!」
「だめです」
「即答!」
宗太が笑いながら戻ってくる。
「またよろしく、水乃」
「仕方ないからよろしくしてあげる」
「何で上からなんだよ」
「ふふっ」
でも。
宗太なら気を使わなくていいし、なんだかんだ楽しいから。
まあ、いっか。
「次、神崎くん」
その名前に、自然と顔が上がる。
早手が面倒くさそうに前へ行って、箱から紙を1枚取った。
「……35」
黒板を見る。
遠い。
「…………」
窓側の後ろの方。
私とは結構離れてる。
……遠いなぁ。
まあ、授業中に話すわけじゃないし。
休み時間になれば普通に話せるし。
そう思いながら座席表を見ていると。
「次、木南さん」
「はい」
木南さんが前へ出る。
紙を引いて。
「36番です」
「…………」
え。
もう1回、黒板を見る。
35番。
36番。
早手の、隣。
「…………」
ほんの一瞬だけ、胸の奥が変な感じになった。
木南さんが早手を名前で呼ぶようになったことを思い出す。
最近は、たまにバスケ部も見に来るようになって。
別に。
だからって何かあるわけじゃない。
ただ隣の席になっただけ。
くじ引きなんだから、誰が誰の隣になったっておかしくない。
「水乃」
「え?」
前にいる慎が振り返る。
「何その顔」
「どんな顔?」
「なんかぼーっとしてた」
「してないよ」
「また早手見てたんじゃね?」
「見てない!」
「だから声でけぇって」
「慎まで変なこと言うからでしょ!」
慎が笑う。
その向こうを見ると、優希と目が合った。
遠い。
優希が口だけ動かす。
『遠いね』
私も口だけで返す。
『ねー!』
真澄も離れたところで新しい席を確認していた。
みんなバラバラになっちゃったな。
「じゃあ、今から机移動してねー」
先生の声と同時に、教室中で机を動かす音が響き始めた。
私も荷物を持って、新しい席へ向かう。
「水乃、そこ?」
「うん」
宗太が隣に机を運んでくる。
「マジで何も変わんねぇ」
「ほんとだよー」
「でも前、慎じゃん」
「最悪じゃね?」
前の席に座った慎が振り返る。
「聞こえてるよ!」
「水乃が言った」
「宗太!」
「俺じゃねぇし!」
「2人ともうるせぇ!」
「慎が1番うるさいよー!」
早速騒がしい。
「……ふふっ」
なんだかんだ、この席も楽しそう。
そう思いながら、ふと後ろを見る。
窓側の後ろ。
早手が机を動かしている。
その隣に、木南さん。
「早手、ここ?」
「ん」
「隣だね」
「みたいだな」
それだけ。
本当に普通の会話。
「…………」
分かってる。
席が隣になっただけ。
それなのに、なぜか少しだけ気になってしまう。
「水乃」
「わっ!」
急に宗太の顔が視界に入る。
「な、何!?」
「さっきから後ろ見すぎ」
「見てないよ!」
「いや見てた」
「見てませんー!」
「はいはい」
「その言い方やめて!」
宗太を軽く叩く。
「痛っ」
「宗太が変なこと言うから!」
「俺何も変なこと言ってねぇだろ」
「言った!」
また言い合っていると。
なんとなく視線を感じた。
顔を上げる。
「…………」
早手。
離れた席から、こっちを見ている。
「……?」
目が合うと、早手の視線が私の隣へ動いた。
宗太。
それからまた、私を見る。
「…………」
あ。
もしかして。
早手も、宗太がまた私の隣なの気にしてる?
そう思ったら。
さっきまで胸の奥にあった小さなモヤモヤが、少しだけ軽くなった。
「何ニヤニヤしてんの?」
宗太が言う。
「してないよー」
「してる」
「してません!」
前には慎。
隣には、まさかのまた宗太。
優希と真澄とは離れちゃって。
そして早手の隣には、木南さん。
今までとは全然違う席になった。
この時の私はまだ。
この席替えが、これから少しずつ私たちの距離を変えていくことなんて、考えてもいなかった。
