「早手、今日もちゃんと補習行ったかなぁ……」
体育館へ向かいながら、ふと呟く。
昨日はあれだけ行きたくないって言ってたし。
今日も私が見てないところで、こっそり部活に来てたりして。
「さすがに行ってるでしょ」
隣を歩いていた優希が呆れたように笑う。
「そうかなぁ」
「水乃、あんた早手のお母さんじゃないんだから」
「だって、昨日も行かないって言ってたんだよ?」
「結局行ったんでしょ?」
「うん」
「じゃあ大丈夫よ」
そう言われても、ちょっと心配。
早手、英語嫌いだし。
先生に怒られて、途中で逃げ出してないかな。
「おーい、水乃ー!」
後ろから聞き慣れた声がして、振り返る。
慎が真澄と一緒にこっちへ走ってきた。
「お前ら遅くね?」
「慎たちが早いんだよー」
「俺は早くバスケしたいからな!」
「はいはい」
優希が軽く流すと、慎が不満そうな顔をする。
「あれ? 早手は?」
「補習」
私が答えると、慎が「あー」と笑った。
「今日もか」
「金曜日まで毎日だよ」
「かわいそー」
「本人のせいでしょ」
優希が言うと、真澄まで頷く。
「課題出してない早手が悪い」
「そうだよね!」
「水乃、嬉しそうに言うなよ」
「だって昨日、私があれだけ言ってやっと行ったんだもん」
「マジで母ちゃんみたいになってんな」
「慎!」
笑いながら逃げる慎を追いかけて、体育館に入った。
早手がいないまま、部活が始まった。
私と優希はいつものようにドリンクを準備したり、ボールを片付けたり、練習の記録をつけたり。
体育館の中には、ボールが床を叩く音と、シューズの音が響いている。
いつもと変わらない光景。
……なんだけど。
「…………」
つい、入口を見てしまう。
まだ来ない。
「水乃」
「ん?」
「さっきから入口見すぎ」
「えっ」
隣で記録をつけていた優希が笑っている。
「べ、別に見てないよ?」
「はいはい」
「ほんとだもん!」
「早手なら補習終わったら来るでしょ」
「だから早手を待ってるわけじゃ――」
ガラッ――。
体育館の扉が開いた。
「あ」
反射的に顔を上げる。
早手だった。
鞄を肩にかけたまま、面倒くさそうな顔で体育館に入ってくる。
「早手!」
気づいたら呼んでいた。
早手がこっちを見る。
「……何」
「ちゃんと補習行ったんだ!」
「お前、俺を何だと思ってんの」
「昨日まで行かないって言ってた人」
「…………」
図星だったらしい。
早手が嫌そうな顔をする。
「途中で逃げなかった?」
「逃げてねぇよ」
「ほんとに?」
「お前マジでうるせぇな」
そう言いながら、早手が私の頭を軽く押す。
「わっ、何するのー!」
「うるせぇから」
「心配してあげてるのに!」
「頼んでねぇ」
「もう!」
早手はそのままコートへ行こうとする。
その背中を見て、ふと思い出した。
「あ、早手!」
「今度は何」
「あと3日だからね!」
「…………」
「明日もちゃんと行くんだよ?」
早手がものすごく嫌そうな顔をした。
「……分かってるって」
「ほんと?」
「しつこい」
そう言いながら。
私の横を通り過ぎる時、早手の手が一瞬だけ私の頭に触れた。
ぽん。
本当に、それだけ。
「…………」
早手は何事もなかったみたいにコートへ向かっていく。
私はその場に残されたまま、自分の頭に触れた。
……なに、今の。
「水乃」
「っ!」
横を見ると、優希がにやにやしながらこっちを見ていた。
「な、なに?」
「別にー?」
「その顔絶対なんかある!」
「何も言ってないでしょ」
「優希ぃ!」
優希は笑いながら仕事に戻ってしまった。
私はもう1度、コートを見る。
早手はもう練習に混ざっていて、真澄と何か話している。
いつも通りの早手。
いつも通りの部活。
それなのに。
頭に残った一瞬の感触だけで、こんなに嬉しくなるなんて。
「……ずるい」
小さく呟いて、私も仕事に戻った。
早手の補習が終わるまで、あと3日。
早く金曜日にならないかな。
その時の私は、そんなことしか考えていなかった。
体育館へ向かいながら、ふと呟く。
昨日はあれだけ行きたくないって言ってたし。
今日も私が見てないところで、こっそり部活に来てたりして。
「さすがに行ってるでしょ」
隣を歩いていた優希が呆れたように笑う。
「そうかなぁ」
「水乃、あんた早手のお母さんじゃないんだから」
「だって、昨日も行かないって言ってたんだよ?」
「結局行ったんでしょ?」
「うん」
「じゃあ大丈夫よ」
そう言われても、ちょっと心配。
早手、英語嫌いだし。
先生に怒られて、途中で逃げ出してないかな。
「おーい、水乃ー!」
後ろから聞き慣れた声がして、振り返る。
慎が真澄と一緒にこっちへ走ってきた。
「お前ら遅くね?」
「慎たちが早いんだよー」
「俺は早くバスケしたいからな!」
「はいはい」
優希が軽く流すと、慎が不満そうな顔をする。
「あれ? 早手は?」
「補習」
私が答えると、慎が「あー」と笑った。
「今日もか」
「金曜日まで毎日だよ」
「かわいそー」
「本人のせいでしょ」
優希が言うと、真澄まで頷く。
「課題出してない早手が悪い」
「そうだよね!」
「水乃、嬉しそうに言うなよ」
「だって昨日、私があれだけ言ってやっと行ったんだもん」
「マジで母ちゃんみたいになってんな」
「慎!」
笑いながら逃げる慎を追いかけて、体育館に入った。
早手がいないまま、部活が始まった。
私と優希はいつものようにドリンクを準備したり、ボールを片付けたり、練習の記録をつけたり。
体育館の中には、ボールが床を叩く音と、シューズの音が響いている。
いつもと変わらない光景。
……なんだけど。
「…………」
つい、入口を見てしまう。
まだ来ない。
「水乃」
「ん?」
「さっきから入口見すぎ」
「えっ」
隣で記録をつけていた優希が笑っている。
「べ、別に見てないよ?」
「はいはい」
「ほんとだもん!」
「早手なら補習終わったら来るでしょ」
「だから早手を待ってるわけじゃ――」
ガラッ――。
体育館の扉が開いた。
「あ」
反射的に顔を上げる。
早手だった。
鞄を肩にかけたまま、面倒くさそうな顔で体育館に入ってくる。
「早手!」
気づいたら呼んでいた。
早手がこっちを見る。
「……何」
「ちゃんと補習行ったんだ!」
「お前、俺を何だと思ってんの」
「昨日まで行かないって言ってた人」
「…………」
図星だったらしい。
早手が嫌そうな顔をする。
「途中で逃げなかった?」
「逃げてねぇよ」
「ほんとに?」
「お前マジでうるせぇな」
そう言いながら、早手が私の頭を軽く押す。
「わっ、何するのー!」
「うるせぇから」
「心配してあげてるのに!」
「頼んでねぇ」
「もう!」
早手はそのままコートへ行こうとする。
その背中を見て、ふと思い出した。
「あ、早手!」
「今度は何」
「あと3日だからね!」
「…………」
「明日もちゃんと行くんだよ?」
早手がものすごく嫌そうな顔をした。
「……分かってるって」
「ほんと?」
「しつこい」
そう言いながら。
私の横を通り過ぎる時、早手の手が一瞬だけ私の頭に触れた。
ぽん。
本当に、それだけ。
「…………」
早手は何事もなかったみたいにコートへ向かっていく。
私はその場に残されたまま、自分の頭に触れた。
……なに、今の。
「水乃」
「っ!」
横を見ると、優希がにやにやしながらこっちを見ていた。
「な、なに?」
「別にー?」
「その顔絶対なんかある!」
「何も言ってないでしょ」
「優希ぃ!」
優希は笑いながら仕事に戻ってしまった。
私はもう1度、コートを見る。
早手はもう練習に混ざっていて、真澄と何か話している。
いつも通りの早手。
いつも通りの部活。
それなのに。
頭に残った一瞬の感触だけで、こんなに嬉しくなるなんて。
「……ずるい」
小さく呟いて、私も仕事に戻った。
早手の補習が終わるまで、あと3日。
早く金曜日にならないかな。
その時の私は、そんなことしか考えていなかった。
