あれから、一週間。
早手とは一度も連絡を取っていない。
電話も。
メールも。
毎日のように開けていた部屋のカーテンも、あの日からずっと閉めたまま。
開けるのが怖かった。
カーテンを開けたら、すぐそこに早手の部屋がある。
もし目が合ったら。
どんな顔をすればいいのか分からない。
あの日、最後に言われた言葉は。
一週間経った今でも、頭から離れてくれなかった。
違うって。
もっとちゃんと話したかった。
だけど。
あんな早手を見たのも初めてで。
怖くて。
結局、何もできないまま夏休みが終わった。
そして今日から。
学校が始まる。
「…………行かなきゃ」
鞄を持って、部屋を出る。
正直。
学校に行きたくない。
学校に行けば。
絶対に早手に会う。
同じクラスだし。
部活だってある。
いつまでも避けていられないことくらい、分かってる。
玄関で靴を履いて。
一度、大きく息を吐く。
「……よし」
ドアを開ける。
「…………え」
足が止まった。
家の前。
いつもの場所に。
早手がいた。
制服姿で。
鞄を肩に掛けて。
何度も見てきた。
いつもの朝と同じ姿。
早手が。
私を待ってる。
「……おはよ」
先に言ったのは早手だった。
「…………おはよう」
声が少し震えた。
てっきり。
もう待ってないと思ってた。
一緒に学校にも行かないんだって。
そう思ってた。
「……行くぞ」
「……うん」
早手が歩き出す。
少し遅れて、私もその隣を歩いた。
「…………」
「…………」
気まずい。
ものすごく。
気まずい。
いつもなら、くだらない話をして。
早手に馬鹿にされて。
私が怒って。
そんなことをしているうちに学校に着くのに。
今日は。
何を話せばいいのか分からない。
早手も何も言わない。
二人分の足音だけが続いていく。
このまま学校まで行くのかな。
そう思っていた時。
「……足」
「え?」
突然、早手が口を開いた。
「もう大丈夫?」
「……足?」
「花火の日。痛がってただろ」
「あ……うん。もう大丈夫だよ」
「そ」
早手は前を向いたまま。
「……あの日、ちゃんと帰れた?」
「……うん」
「…………」
「優希と一緒に帰ったよ」
「そっか」
また少し。
沈黙が続く。
それから。
「……水乃」
「……なに?」
「あの時は……ごめん」
「…………」
胸が。
ぎゅっとなった。
早手は前を向いたまま。
それ以上、何も言わなかった。
でも。
何のことを言ってるのかは、すぐに分かった。
「……私」
「ん?」
「本当に……何もしてないよ」
声が震えた。
「慎が急にしたことで……私もびっくりして……」
「……うん」
「ちゃんと、やめてって言ったから」
早手が少し目を伏せる。
「……分かってる」
「…………」
「慎からも聞いた」
「……慎から?」
「うん」
「…………」
慎と。
話したんだ。
いつ。
どんなふうに話したのかは分からない。
でも今は。
それを聞くこともできなかった。
「……私も」
「何」
「慎は悪くないって言ったの……早手より慎の方が大事とか、そういう意味じゃなかったから」
「……うん」
「足が痛いのに気づいてくれて、休ませてくれたのは本当だったから……そこまで慎のせいにするのは違うって思っただけ」
「…………」
「それに私……早手のこと探してたんだから」
早手がこっちを見る。
「呼んだのに、どんどん行っちゃうし……人多いし……下駄痛いし……」
思い出したら。
ちょっと腹が立ってきた。
「そもそも早手が勝手にいなくなるからでしょ!」
「……悪かったって」
「そこもちゃんと反省してよね!」
「してるよ」
「ほんとに?」
「してるっつーの」
「…………」
あ。
久しぶりだった。
こうやって。
早手と言い合うの。
早手も同じことを思ったのか。
少しだけ口元が緩んだ。
「……何で笑うの」
「別に」
「笑ったじゃん!」
「笑ってねぇ」
「絶対笑った!」
「うるせぇな」
「…………」
まだ。
完全にいつも通りじゃない。
あの日のことだって。
簡単に全部忘れられるわけじゃない。
でも。
さっきまでより。
少しだけ。
早手の隣を歩くのが。
怖くなくなっていた。
