私と尚冶の出会いはもう一年前ぐらいになる。私がまだ高校三年生で、彼は私が働いていたバイト先の先輩だった。ちなみに高校の先輩でもあった。とはいえ彼が在学中のときは存在すら知らなくて、バイト先で初めて存在を知った。第一印象は明るい人で、図々しい。だった。初対面ですでに名前呼びされた時は何だこいつと内心思った。でも話してるうちにそんな悪いやつじゃないのかな、なんて思い始めてたらいきなり告白された。人生初の告白でテンパる私に尚冶は見たことがない優しい笑みを浮かべて、好きだよと言って抱き締めてきた。彼の腕の中はとても暖かくて、何故か泣きそうになった。私の心臓は今にも破裂しちゃいそうなぐらいバクバクと脈打つ。でも尚冶の心臓は私以上にバクバクしてた。だって速さが違う。尚冶のほうが、速い。ふと、顔を見上げて彼を見れば、髪の隙間から見えた耳朶が赤くなってた。季節は夏だったけど、その時は夜で少し涼しかった。だから、彼もきっと緊張して、耳朶が赤くなっちゃうくらい恥ずかしいんだ。可愛いなぁ、この人って考えていたらいきなり胸の奥がきゅっとなった。…あれ?これって?もしかして、私…ああ、でも、うん、まだ好きかどうかはわからないけど、この人を、好きになりたい。好きになってみたい。私は彼の背中に手を回して、小さく、お願いします。と呟いた。彼は嬉しそうに笑って、私の体を更に強く抱き締めた。
今でも、始まりのときを鮮明に思い出せる自分が少し嫌だ。
でも忘れるのはなんだか癪だった。行為が終わって私は尚冶に背中を向けて寝ていた。はぁ、と吐いたため息は彼には聞こえない。何故なら奴は終わってすぐに寝始めたのだから。…昔はこんなじゃなかったのに、な。一年経つとこうも違うのだろうか。今日だって呑みをしたいって言ったのは私だ。二十歳になった記念を一緒に祝ってよ、と。尚冶は別にしなくてよくね?みたいな表情しながら渋々承諾した。前なら、自分から率先してやってくれたのに。はあ、と二度目のため息をつくとぐいっと後ろへ引っ張られた。
「わっ…!」
「…好きだよ、ゆず。」
「え…」
「スー…スー…」
…寝言か。びっくりした。好きだよ、なんて久しぶりに言われたなぁ。彼の温もりを背中で感じながら瞼を閉じた。寝言なのに、その一言でまた好きが戻ってきちゃうとか、どんだけなんだ私。浮気されてるのに、な。嫌いになりきれない自分に呆れてしまうけど…まだ、しばらくはこのシアワセに浸っていたい。唯一、あの時と変わらない彼の腕の中で。
おわり
