車から降りたら、嫌でも素足に濡れたブーツを履かなければならなかった。



「うわあ、気持ち悪いよお……」


歩きにくそうに、がに股になる真彩の前に司がすっと蹲った。


「おんぶしてあげる。そのまま履いたら素敵なブーツがダメになっちゃうよ」


真顔でいう司に真彩は戸惑ったが、春物のブーツはまだ2回しか履いていない。
大好きなブランドのお気に入りだった。



「そうね……」


躊躇したが、司の好意に甘え、えいっと、大きな背中にすがり付いた。


濡れた格好のまま、フロントやロビーを通るのは恥ずかしかったけれど、客の姿はほとんどなく、司が大急ぎで部屋へ運んでくれたので、そうに見られずに済んだ。



司と娘の渚が泊まっているホテルの部屋は、ツインのスタンダードルームで、決して広くはない。


けれど、淡いベージュを基調とした寛げる空間だった。


司の叔父である『社長』の部屋は隣だという。


「…昼は窓から海が見えるんだけどね。今は真っ暗は何も見えないんだなあ…」


司は、なぜか言い訳するみたいに言った。