真彩も司とメールを交わして父娘二人きり生活ぶりを知るうちに、漠然とした不安を感じていた。


経済的には安定しているけれど、何かがあれば、一気に脆く崩れてしまいそうな危うさ。


それは、少しずつ澱のように積もってゆき、いつしか大きな黒い棘となる。


そして、渚が反抗期を迎えた時、その棘は父娘の絆を取り返しがつかないくらい傷付けてしまう結果を招くのではないだろうか。


それは当の司本人が1番よくわかっているはずだ。



「俺のことは大人だから、心配してない。でも、渚はまだ4歳だから。

俺が納得しないなら、腕ずくでも渚を連れて帰るって母親に泣きながら言われてさあ…」


司はふう…と溜め息を吐いた。


「…実はさ、俺もこの頃、1人で何もかもやるのしんどくなってさ。
責任の重い仕事持たされても、出張も残業も出来ねえ。
引き受ければ、渚が放ったらかしになっちまう。

どれを捨てて、どれを取るのか考えて、
この家を売りに出すことにしたんだ。

そろそろ潮時かなあ………

本音言うと、俺だってたまには女の子と遊びたいしね!」


そう言うと、司は口元だけを引き上げ、悪戯っぽくニッと笑ってみせた。