「うん……」


真彩は瞼を伏せた。



2年前だとすると、渚は2歳だったはずだ。

渚の母は、娘がはっきりと物心付かぬうちに、この家から去っていったのだろう。


小さな我が子を残していった彼女の気持ちが真彩には、到底わからない。


人に対して少し不器用で、でも、心優しくて善良な司。

それなのに、自分たちの気持ちを優先する身勝手な人達に傷付けられてしまった。

この家に残された司と渚の心の傷が癒えるほど、まだ年月は経っていない。


「私…いつか前の奥さんに罰が当たると思う!
1番傷付くのは渚ちゃんだもん。
それに私、司を辛い目に合わせた人達を絶対に許せない!」


意識せず、真彩の口調は強くなる。


それをなだめるかのように司は淋しげな目のまま、口の端だけを引き上げて笑った。


「…許せないとか、そういうの、真彩には似合わないよ。
何があってもあっけらかんとしてるとこが真彩のいいところだし。

…旦那とも早く仲直りしなよ。
浮気したわけじゃないのに、真彩をぶったのは、確かにやり過ぎだけどさ。
本当に愛してるからだってわかるだろ?心配なんだよ」