【恭】目線


俺は突然、父親になった。

友人夫婦とは幼い頃から仲が良く、毎日のように遊んでいた。それは、あいつらが結婚して子供が生まれても変わらず、よく遊びに行っていた。

梓も俺に懐いてくれていた。小さな手で俺の頬を撫でては引っ張ったりして。


『梓、可愛いよな』


『お前も嫁さん持てよ。梓はやらねぇけど』


『それもいいなぁ。梓が大人になったら俺と…』


『聞けよ!あ・ず・さはダメ!』


『あなた!梓が泣いちゃってるじゃないっ』


幸せって脆くて、自分じゃどうにも出来ない。

友人夫婦が亡くなった後、梓は泣かずにずっと遺影を見つめていた。

まだ亡くなったことが分かっていないものだと思っていたが、彼女は分かっていた。


ただ泣くことが出来なかった。


ぼんやりしている梓に話しかけると、声が出ないことにも気付いた。


そして俺は抱きしめた。この子の悲しみは俺よりもずっと大きい。

1人じゃない、俺がいる。俺がいるから。

何度も呟くと、梓は震えながらしがみついてきた。


闇に飲み込まれてしまいそうな梓を絶対に離さない。


親友達が残した命を、どんなことがあっても守っていくと。


友人夫婦の親戚達に頭を下げ続けた。

あいつらがしたかったこと、すべて俺が引き継ごう。


そして、梓は俺の娘になった。




『ありがとう』


あいつはいつも、俺が何かをするとメモ帳に書く。


ごはんを作っただけで、洗濯をしただけで、掃除をしただけで、頭を撫でただけで。


嬉しそうに笑って。