「今日はちょっと遅くなるかもしれない」


朝ごはんを食べていると溜息を吐きながら彼は言った。

私を1人にするのが嫌なんだろう。でも、もうそんなに小さい子ではないのだから、そこまで心配される必要はない。


『大丈夫』


「なるべく急いで帰るから。とりあえず、夕飯は作っておいたからレンジで温めて食べててくれ。先に寝てていいから」


彼はいつも私より早く帰ってこようとする。

ごはん作りやお洗濯があるから早く帰ってくるけれど、お仕事が残っているから夜遅くまで起きて頑張っていることを私は知っている。

私の為に。


「テストも近いから、生徒達の補習をするんだ」


お茶を飲みながら目をパチパチしていた。

昨日も遅くまで起きてお仕事していたんだよね。

私も昨日遅くまで起きてやっていたことがある。彼の為に何か出来ないかと思い、だいぶ前から頑張っていたことを。


「おっと…ネクタイ、どこやったっけ」


その言葉を待っていました。

隠していたネクタイをそっと手に持って、彼のワイシャツを引っ張った。


「ん?あ、見つけてくれたのか」


急いでメモ帳に書いた文字。


『今日からネクタイ係になります』


「ネクタイ…係?」


ポカンとしていたけれど、やっと分かったのかしゃがんでくれた。

ネクタイのやり方、保健室の先生に教えてもらったんだ。


ウキウキしながらネクタイを結んだ。


「ありがとう、梓。また明日もお願いしていいか?」


大きく頷くとぎゅっと抱きしめてくれた。


明日も明後日も明々後日も、毎日やるから。