「俺、午前中は授業がないんだ。だから、それまで遊ぼう」


手を繋ぐとまた泣きそうな顔をする。どうした?まだ何か考えているのか。

車から降りて、家に入ると走って部屋へと向かう梓。


「梓?」


追いかけて梓の部屋の扉をノックする。

開けようとすると、ガシャガシャという音がした。扉を開けてみると、本棚から何かを取り出していた。

大きな箱から一冊の本を取り出した。


「『失声症を治そう』って、それどうしたんだ?」


『圭さんがくれたの』


「梓…」


『自然治癒で治る人もいるんだって』



随分、読み込んでいるのか、付箋が貼ってあった。

重要なところを赤ペンで線を引いてあったりした。


「…ずっと、1人で?」


これを読んで、治そうとしていたのか?


『最近、ほんの少しだけど声みたいなのが出るでしょう?だから、もうすぐ治るかもしれないって思って。驚かせたくて』


俺は今まで何をしていたんだろう。

自然治癒で治ることは知っていた。だから、いつも通りに過ごしていればいつか治るって思ってた。


でも、梓は1人で頑張っていたんだ。



「ごめ…梓っ」


強く抱きしめると、泣いているようで震えていた。


ごめん、ごめん、ごめん。


何度も謝るといいよ、大丈夫だよと言った。