彼の腕を掴んで、開けないでと泣きながら伝える。

開けたらきっと、彼と離れることになってしまう。


だって、あの人達は…お葬式の時、私のことを嫌な目で見ていた親戚だもの。


「梓、開けないから。ほら、おいで」


彼に抱き上げられて、リビングに向かった。まだ扉を叩いて名前を呼ばれているが、彼は無視してくれた。


ソファーに座ると、彼はゆっくり話してくれと言った。


昨日、手紙が来ていたこと。内容は私を引き取りたいということ。それを破り捨ててしまったこと。


離れたくなくてやってしまった。



「気付いてやれなくて、ごめんな。でも、心配すんな。俺はお前を離さないから。嫁に行くってなっても、ついていくから」



こんな時まで、そんなこと言うんだから…。

大丈夫だよ、恭お兄ちゃんが結婚する日まで私は結婚しないし、ずっと一緒だからね。

彼に強く抱きつくと、大丈夫だからと頭を撫でてくれた。どこにもやらないからと、優しく言ってくれた。


遠くから聞こえる音も声も、すべて無視して私達は泣きながら笑った。


しばらくして、帰ったのか叩く音も呼びかけることもなくなった。


彼に今来た人達が親戚だと伝えると、頷いてどこかへ電話をかけた。



「あ、古市ですが。手紙が何故、梓宛だったのか。突然の訪問など色々聞きたいことはあるんですが、梓の心のケアをしなければならないんで、それはもういいです。ただ、梓はもう俺の娘なんです。誰にも渡せません」



少し怒ったような口調で、相手に話し続ける。

相手は慌てて謝っていた。多分、さっきの親戚じゃない。老人のような声。


彼の腕にしがみついていると、優しい目をして頷いた。