結局、恩田君を残して帰える事が出来ずに朝を迎えていた。
 あの後、解熱剤の効果か、様子を見に行くと最初は苦しそうだった呼吸も楽になっっているようだった。
 途中で、何度か着替えをさせるために起こすのが可哀想かなって思うくらい、ぐっすり眠っていた。
 でも、寝ぼけているのか半分眠った状態で、私のいう事を聞く恩田君は、それはそれで可愛かった。
 なんか、子供みたいで。


 そんな事を繰り返して、朝方には熱は37度台まで下がっていた。

 静かに寝息を立てる様子にホッとして、寝顔を眺める。

 私よりも頭、一個と半分くらい背の高い恩田君は、いつも長めの前髪でその顔が何となく隠れてしまっている。
 今は閉じている瞳が黒じゃなくて、こげ茶色だと気が付いたのも昨日の夜。

 熱で潤んだ瞳で見つめられた時だった。

 額にかかった髪の毛をそっと指で払うと、整えられたというよりも自然な形の整った眉が見えた。
 長い睫毛はいつだったか伏せられた時に見た気がする。
 まじまじと見つめると、本当に長くて・・・いいな、とか本気で思う。
 鼻筋の通った高い鼻とか、少し薄い唇とか・・・。
 
 そうやってじっくりと見つめる恩田君は、何だか私の知ってる恩田君より「男」っぽかった。


 まあ、実際「男」なんだけどね。



 そんな事を思いながらその寝顔をじっと見つめてしまう。


 もっと近くで。

 
 もっと近くで見たい。

 
 どんどん距離の無くなる私と恩田君。

 
 キス・・・したい。
  
 
 気が付けば、そっと唇が触れる距離まで近づいていた。


 っ!!!!!!


 何やってるのよ!?
 私は痴女か!?
 病人を襲うってありえないでしょ!? 
 もう・・・本当に何やってんの・・・・・私。


 微かに触れた唇に手を当てて、急いで寝室を後にした。


 帰ろう・・・。
 
 ここに居たら、本当の痴女になってしまいそうで自分が怖いわ・・・。


 ふと、恩田君の眠る寝室を振り返る。

 自分からキスしたいなんて・・・初めて思った。
 今までして欲しいと思った事はあっても、自分からしたいと思った事は無かった。
 
 ――――どうしちゃったのよ、私。

 そんな、甘い恋愛なんてした事ないじゃない!?
 自分からキスしたいなんて、甘えるような事・・・。

 
 何だか胸の奥に、甘いキスが私を支配していくように広がっていく。
 結局、帰られなくなってしまう私は甘い感覚が嫌じゃなく・・・むしろ好きなのかもしれない。
  
 はっきりと自信の持てないこの甘い感情を、確かめたいと思ってしまう。



 ねえ、恩田君。
 
 ・・・・・恩田君は、甘いのはお好き?