ロリポップ

 来るのが二度目の恩田君のマンション。
 エントランスを抜けてエレベーターに乗り込む。
 カードキーを差し込んで玄関を開けると、中からはひんやりと冷気が押し寄せてくる。


 リビングにひとまず恩田君を座らせて、バスルームへ行ってバスタオルを片手に掴んで、蛇口を思い切り上げた。
 すぐに熱いお湯が湯気を上げ始める。
 それを確認して、再び、ソファーに座る恩田君の元に戻るとバスタオルで頭を拭きながらコートを脱がした。
 暖房を入れた室内は少しずつ暖まり始めていた。
 それでも、やっぱりまだ寒くて。
 濡れていない私は我慢できる寒さだけれど、熱があって濡れている恩田君にとっては冷凍庫の中並みの寒さだ。
 

「もう少しだけ待ってね。すぐにお風呂に入れると思うから。熱が高いみたいだから、本当は入らないほうがいいかもだけど、濡れて体が冷えてるから・・・。温まってすぐに薬飲めば大丈夫かな・・・。本当に病院に行かなくていいの?」



 恩田君の頭や肩を拭きながらその顔を覗き込むと、こんな時だというのに恩田君は笑っていた。



「何笑ってるのよ!人が心配してるのに!」


 怒って頭を拭く私の手を、恩田君の冷えた手が掴む。


「すみません、でも、病気も悪くないかなって・・・。逢沢さんがこんなに心配してくれるし。ちょっとありえないくらいに寒いのが難点ですけどね」


 何て熱っぽい瞳で見つめてくる。
 ちょっと・・・そんな瞳で見つめてくるの、違反でしょ?
 落ち着かなくなるじゃない・・・・。


「お風呂、お風呂見てくるね!」


 つかまれた腕を解いてバスルームに行く。
 湯気で充満したバスルームは、ほぼ浴槽を満たすほどにお湯が溜まっていた。
 その中で、私は落ち着かなくなってしまった心臓を抑えて深呼吸をする。
 

 別に、何も無いのにどうしてこんなにドキドキとかしてるの?
 恩田君は熱があるのよ、だから、あんなに熱っぽい瞳なだけ。
 そう、それだけ。
 自分に言い聞かせるように深呼吸して、バスルームを出て恩田君にお風呂に入るように言った。
 相変わらず熱っぽい瞳で見る恩田君は、いつもの爽やかなグリーンの匂いがしたけれどそれ以上に色気があって・・・困る。