ロリポップ

 エレベーターから降りて外へ出ると、ヒュ~っと風が吹いて雪が顔に当たって溶ける。
  

 「冷たッ・・」



 思わず声に出てしまう冷たさ。 
 歩いて駅に行って、電車に乗って、降りて歩いて・・・頭の中で帰り道のシミュレーションをしてげんなりしながら、ドラえもんとかいないのかな・・・とか大人とはとても思えない現実逃避をしてみる。
 どこでもドア~!とかさ・・・・。
 なんて、くだらない妄想をもんもんとしている私の視界の端に、見覚えのある頭。
 会社の植え込みの隅っこに、埋もれるみたいに見える栗色のそれ。
 いつも綺麗なサラサラの栗色は濡れて色を濃くしていた。



「恩田君!?」



 植え込みに回りこんでそこを覗き込めば、やっぱり埋もれるように見えていたのは恩田君の頭だった。
 植え込みの植えられているブロックに腰掛けるように、恩田君は座ってじっと私を見つめている。
 その髪の毛からは溶けた雪の雫がポタリポタリと落ちて、コートの肩も濡れていた。


「どうしたの?具合でも悪いの?ずぶ濡れじゃない!早く帰って温めないと・・・」


 そう言う私の顔を見つめる瞳は、濡れた前髪に邪魔されて良く見えなかった。


 
「・・・一緒に帰ろうと思って待ってたんです。・・・逢沢さん、忘れ物取ってくるのにどれだけ時間かかってるんですか・・・」


 そう言って笑う顔は力なくて、いつもの恩田君よりも弱々しくて。


 そっと伸ばされた恩田君の手が私の頬に触れた。 
 その指先は冷え切って、氷のように冷たかった。
 


「ごめんね?帰ろう」


 私の声に頷いて立ち上がった恩田君は、バランスを崩したように私にもたれかかる。



「大丈夫?」


 
「すみません・・・・大丈夫じゃ・・・無いみたいです・・・」


 そう言った顔は熱っぽく赤くなって、見え隠れする瞳は潤んでいた。
 額に手を乗せてその熱の高さに驚く。


「熱があるんじゃない!病院に行かないとっ」


 タクシーを止めようと道路へと行く私を、恩田君の腕が引き止める。
 


「大丈夫です、薬はもらってます・・・すみませんが、家まで一緒に帰ってくれますか?」


 潤んだ瞳で病気の時にそんな頼みかたって・・・ずるいと思う。
 
 タクシーを止めて私は恩田君の家に向かった。


 一瞬、瀬名さんの顔が浮かんだけれど、緊急事態なんだから仕方ないよね?
 と、思い浮かんだ瀬名さんの顔に聞いた。
 当然、返事なんてしてくれないけれど。