ロリポップ

「逢沢さんとこうして一緒にコーヒーを飲む事があるって少し前までは思いませんでした」


 隣で、サンドイッチを食べ終えた恩田君が、残りのコーヒーを飲みながらそう言った。



「どうして?別に、あるでしょ?」



「ありえませんよ~、あの日、城嶋さんに連れられてあの居酒屋に行かなかったら無かった事です。僕と逢沢さんとはあの日まで、話した事もなかったですから」


言われてみればそうか・・・。



「そっか・・・そうだね。私も同じ課の後輩なら顔と名前くらいは知ってるけど、他の課になると分からないもの。そう思ったら、瑛太に感謝しなきゃね。瑛太が連れてきてくれなかったら、こうして一緒にコーヒー飲むこともなかったんだから」


 笑う私を見て、恩田君も、そうですね、と微笑む。
 何か、恩田君には時間の流れまでもがゆっくりなんじゃないかって位、穏やかな空気がある。
 営業ってちょっと、殺伐としてそうだけど、大丈夫なの?って思ってしまう。



「逢沢さんは僕達から見れば、高嶺の花、なんですよ。年上の綺麗な先輩。近くで見ているだけの存在って感じです。だから、話が出来ると嬉しいし、こうして一緒にいられるともっと嬉しい」



 ストレートにそんなこと言われたの初めてで。
 いやそれって、ちょっとっていうか、かなり?恥ずかしいんですけど。


「最近の逢沢さんは、以前よりも話かけやすくなったみたいで・・・」


「・・・私って話かけにくかったわけ?」


 だって、そういうことでしょ?
 ちょっとショックなんですけど、それ。


「あっ・・・」


 しまったと顔に出ている恩田君が何だか可愛くて、笑ってしまう。


「この大きめな猫みたいな目がきつく見られるから、話かけにくいって友華にも言われたことあるから」



「・・・緊張するからですよ、その瞳に見つめ返されると・・・だから、僕の同期は逢沢さんに話かけられない」


「は・・・?そんな理由なの?」



 緊張するって。
 先生の前に立った子供みたいな理由に笑えてくる。
 


「最近、話しかけられること、増えたでしょ?」



 言われれば、廊下を歩いている時やエレベーターをまっている時に話かけられることがあった。
 以前なら後輩に話しかけられる事は殆ど無かった。



「そうかも・・・でも、恩田君は緊張しないでしょ?こうして一緒にコーヒーも飲んでるし」



 そう言って恩田君を見ると、視線が泳いだ。



「緊張しないわけ、ないじゃないですか・・・本当に・・・この人は・・・」



 溜息みたいな息をつきながら、思ったよりもずっと長い睫毛を伏せながらぼつりと呟いた。
  

 そう・・・なの?