張り詰めた空気の中、
「へぇ、君ティーナ=ルイネスっていうんだ。残念だね。脱獄できなくて。」
銀髪の男性はクスクス笑ながら語りかけた。
「うるさいわね。そんな簡単に捕まらないわよ。捕まるわけにはいかない。」
ティーナは自分に言い聞かせるように、拳を強くにぎって言った。
「おい、誰と話してるんだ。」
見張りの男は顔をしかめる。
そして、ティーナと話している人の正体を確かめるため、少し近づいた。

見張りの目に銀髪の囚人の姿が映り込んだ瞬間、見張りはあからさまに青ざめ、ふるえだした。
「お、おま…おまえは…」
その様子を見て、他の見張りもティーナの後ろに捕まっている銀髪の男性を見る。
だが、男性を見た人は皆、同じように顔を青ざめさせた。
ティーナは怪訝そうに眉をひそめる。
そして、見張りの中の1人が
「ティーナ=ルイネス、お前、死にたくなかったらそこから離れろ。そいつに近づくな。……殺されるぞ。」
と、がたがたふるえながら言った。
ティーナはその言葉の意味がよくわからず、さらに警戒を強める。
そんなことを言って自分を騙し、捕まえようとしているのだと、思ったのだ。
「ふっあはは」
急に、銀髪の男性が笑いだした。
振り返って見ると、きれいな顔に不気味な笑みを浮かべている男性の姿をとらえた。
「別に、君らをとって食おうなんて思ってないよ。そんなに怖がらなくてもさ。」
少し間をおき、続きの言葉を紡ぎ出す。
「それに、君らもわかってるでしょ?今の僕には、君らを全員殺すだけの力はない。」
ティーナは、殺す、と聞いて背筋がこおるような感覚を覚えた。
(この人、たしかにやばいかもしれない。ほんとに殺されかねないわ。)
そう思いながら、男性に対しての警戒を強める。
すると、
「ねぇ、ティーナさん。 君脱獄したいんでしょ? なら僕と組まない?」
言いながら、不敵な笑みを浮かべた。
「え?どういうこと?」
ティーナは意味がわからなかった。
「だから、そのままの意味だよ。僕と君が組んで、脱獄しよ、ってこと。君くらい余裕で脱獄させられる自信あるよ。保証する。」
騙されてるだけだろう、とおもった。
なんといったって、この人は無期懲役に処される程の囚人なのだから。
でも、この人が嘘をついてるようには見えなかった。

「……ほんとに? 」
言ってしまってから、後悔する。
やはり信じるべきでなかったかもしれないから。
「ほんとだよ。嘘じゃない。」
真っ直ぐと男性の赤い瞳に見据えられる。
その瞳は嘘をついてるようには、どうしても見えない。
「あたしはどうすればいいの? 組むって言うからには何か条件があるんでしょ?」
おそるおそる聞いてみる。
引き返すのは、この条件を聞いてからでも遅くはないと思った。
「血ちょうだい。一滴でいいから。」
男性はまた意味のわからないことを言い出す。
(よくわからないけど、血一滴くらいどうってことないわ。)
そう思って、ティーナは血を出すために、指の皮を噛み切り、血が出てきた指を銀髪の男性の前にさし出した。
その時
「やめろ‼血を飲ませたらだめだ‼貴様死にたいのか⁈」
見張りたちが慌てふためき、叫んだ。
逃げていく者もいる。
(何をそんなに慌ててるんだろぅ)
ティーナにはちっとも理解できなかった。