急に声をかけられ、少女はビクッとする

「ここは君のような女子供が来るところところじゃないよ。」
若い男の人の声が少女に続けて発せられる。
少女は声のする方に向いた。
声の主が視界に入ると、少女は思わず息をのんだ。
そして
「きれい…」
と思っていたことをぽつりと呟く。
そこには手足を錠で拘束された男性が捕まっていた。
肩下まで伸ばした銀色の長い髪。切れ長で鋭い赤い瞳。そのルビーのような瞳は少女をまっすぐに見据えていた。
彼の容姿は誰が見ても驚くほど美しく、怖いくらいに整っていた。
「は?なにが?」
急に、きれい、なんて素っ頓狂なことをいったためか、男性は眉を寄せ少女を睨んでいる。
「あ、すいません、見とれてしまいました…」
緊張したように少女は言葉を返す。
「あぁそう。」
男性は小さく溜息をついて、無感情に呟いた。そして続ける。
「それで?君そこで何してるの? まぁ、塔の中にいるくらいだから、普通の女の子ってわけでもないんだろうけど。」
「あー、えと…。あたし、ここから出たくて、出口を探してるの。」
少女の返事に男性は目を細める。
「なるほど、君、脱獄犯?それで出口を探してここまで来たってことかな。」
脱獄犯と言われ、冷や汗が流れる。
その様子を男性は目を細めたまま見ている。
(どうしよう、この人にあたしの居場所をバラされたら、それこそ終わりだ。)
少女が内心ドキドキしていると、
「ふーん、まぁ別に告げ口する気なんてないよ。君が脱獄しようが、しまいが僕には関係ないからね。」
と、意外な答えが返ってきた。
てっきり告げ口されると思ったのに。
ほっと少女は胸をなで下ろす。
男性は言葉を続ける。
「でも、このままここにいると、どうせ捕まるよ、君。」
どきっとする。
ここは行き止まり、もたもたしているといつかは見つかり逃げられずに捕まるのがオチだ。
少女の顔に焦燥の色が浮かぶ。
「あ、あの、ここ何階かわかりますか?

(ここで何もせずに捕まるくらいなら、やれることやって捕まったほうがましだわ。)
その問に、男性は顔色一つ変えずに淡々と、
「ここはね、地下一階だよ。」
と、想定外の答えを口にした。
「え?」
少女は戸惑いを隠さずにはいられない。
「地下?地下なんて存在するの?上の階層にいく程、凶悪犯が捕まってるって聞いたんだけど。」
「うん、その通りだよ。実際に、ここが地下。…一際長い階段があっただろう? それを降りたら地下だ。」
男性が説明してくれる。
確かに、さっき一際長い階段を降りてきたばかりだ。
少女は頭に浮かんだ疑問をおそるおそる男性に聞いてみた。
「ここはどういう人たちが捕まっているの?」
男性はクスッと笑って、
「無期懲役もしくは死刑に処された囚人だよ。僕は前者。」
と答えた。
それを聞いて変な汗が少女の顔を伝う。
(早く…早くここから離れよう。)
そう思って、男性のもとから離れようとした、その時、
「ティーナ=ルイネス!これ以上罪を重くしたくなければ、今すぐおとなしく捕まれ!」
数人の見張りが、必死の形相で走ってきた。
(しまった、遅かった。どうしよぅ…)
少女ティーナは、追いつめられてしまった。