「彩はかわいいな」


大川さんは
私の髪をなでながら
ベッドでそう言った。




大川さんとショッピングをして
食事をして
大川さんのマンションに来た。

私は大川さんに
新しい靴とバッグを
買ってもらった。




大川さんは今日も
性急に私を求めた。
シャワーも浴びずに。

そのことに
なんだか私は安堵する。



―まるで10代の男の子みたいね。


そう思ったら
ちょっと笑ってしまった。



「どうしたの?」

ニヤつく私を見て
大川さんは怪訝な顔をする。


「なんでもない」

そう言って
大川さんに抱きつく。


大川さんの体は
温かくてキモチがいい。



なんだかんだいって
大川さんのことが
好きなのだ。

大川さんさえ
腹をきめてくれれば
私はいつでも飛び込むのに。




「ねぇ彩」

大川さんが
かしこまった口調で言う。


「彩、ここに住まないか?」




―ビックリした。

冗談?
それにしたらタチが悪い。

「同棲、ってこと?」

「うん。僕は不規則な仕事だから
 毎晩は帰れないかもしれないし
 昼間帰ってくることも
 あると思うけどね」



こんな素敵なマンションで同棲。


悩む。
かなり悩む。


正直言って
同棲するくらいなら
もう結婚してしまいたい。

中途半端なまま続けて
いつかすべてを失うのが
1番コワイことなのだ。



「私、実家住まいだし
 すぐには決められないわ。」

「それはわかってるよ」

「親は結婚するまで
 実家にいてほしいかも
 しれないし…」




しばらく沈黙が続いた。


“結婚”のキーワードが出ると
大川さんは避けようとするのが
見え見えだ。

そこに私はイラだつ。



「まぁ私たち、
 まだ出会ったばっかだしね」

沈黙に耐えられなくなって
私がそう言うと
大川さんは笑って

「そうだよ。
 もう少しお互いをよく知ろう」

と言った。