あれから私は
友貴とも大川さんとも
うまくやっている。



―私ってチョーシいい奴。

まだ私は迷っている。



今日は大学時代の同級生、春奈と
久しぶりに食事する。


待ち合わせは池袋。
音大生だったころ、
東京芸術劇場によく来たことを
ふと思い出した。



あの頃はよかったなぁ。

“今が1番幸せ”っていうのが
ホントは理想だけど
なかなかそんな風にはいかない。


学生のころは毎日楽しくて
そりゃ恋の悩みとか
小さな不安は多々あったけど
今みたいな将来の不安は
全然なかった。


時間は無限に続いていて
自分には明るい未来しかないって
そんな気がしてた。


――そんなはず、ないのにね。

過去の自分は
なんて幸せものだったんだろう。
幸せもの、というのは
愚かものと紙一重かもしれない。





「ごめん!待った?」

春奈が人ごみをかきわけ、
かけよってきた。



「うん、待った待った」

「ホントごめーんっ!」

「ウソウソ、何食べよっか?」

「なんか居酒屋とかがよくない?
 長居しても文句言われなそうな
 いい雰囲気の店がいいなー」

「ゼータクもんめ」

「へへ」




そして
友貴と行ったことのある
個室居酒屋に連れて行った。

料理も美味しいし
雰囲気もいい。

個室だから話を他人に
聞かれる心配もない。






「感じのいい店だね〜」

席に座ると
春奈は辺りを見回して言った。


「インテリアもコッてるし
 さては男と来たんだな?」

「まぁね」

「昔からモテたもんね、彩は」



春奈は一緒にいてラクな友達だ。

裏オモテがなくて
あっけらかんとしている。
そして無神経じゃない。
こういう友達って
大人になると貴重だ。



「私ビールね。彩は?」

「じゃあ私も」


テキトーに料理も数品注文した。


「どう?ドイツは」

「毎日楽しいよ。
 彩も一緒に行く?」

「仕事があるもん」

「そっか、残念」