天気がよくて
気持ち良かったので
オープンカフェでランチをした。


ひとりでランチなんて
昔はさびしくて
できなかったんだけど
最近は平気。




サクッと済まして
仕事に向かった。


遅番の日ってちょっとユーウツ。
楽器屋って
夕方から忙しくなるのだ。



ホコリが目立つ
ピアノを拭いていると
後ろから声がした。


「彩!!」


職場の人じゃない、
聞いたことのある声。


「春奈!」


振り向くと
大学時代の同級生で
今はドイツ留学中の
田口春奈がいた。



「昨日帰国したの。
 会いにきちゃったぁ」

「ありがとう〜 会いたかったよ
 何年ぶりだろ」

「ドイツ行ってもう2年だから
 2年以上会ってなかったよね」




今日は幸い、
ピアノのショールームには
私しかいなかった。

楽譜売場だったら
話し込めないもんね。
ラッキー。



「まだドイツにいる予定なの?」

「うん、向こうのオーケストラの
 オーディションかたっぱしから
 受けてるよ」


―春奈の専門はフルートなのだ。


「そっかぁ…
 世界で活躍するんだねぇ」

「やだぁ。
 まだ受かってないんだから」




同じキャンパスで学んだ仲間。
でも、今は
全然違う道を歩んでる。


私もあの頃
恋愛なんかに
うつつをぬかしてないで
しっかり勉強してたら―




よそう。
もう過ぎたこと。
それに同級生の大多数が
音大を出たあとフリーターだ。

楽器屋に就職できたことに
感謝しなきゃ。



「でも彩もったいないよね〜
 まぁここも音楽の仕事だけど。
 今は全然弾いてないの?」

「もうほとんど…
 時間もないしね」

「彩のピアノ、
 好きだったのになぁ」




そうだ。
学生時代、試験のたびに
春奈のフルートの伴奏を
してあげていた。

春奈は
“彩の音がしっくりくる”
とか言って
他の人には伴奏を頼まなかった。
なつかしい。