等心大〜tou・sin・dai〜

「ふふふ。
 大川さんたら他の女の子にも
 そういうこと言ってたりして」

『イジワルだなぁ。
 そんなことありませんよ』

「あ、今お仕事中ですか?」

『会社にはいますけど
 ヒマしてました。ははは』

「特に用事があったわけじゃ
 なかったんですけど…
 こんな時間にすみません」

『用事がないのに
 電話くれてうれしいです』



こういうことを
まだ付き合っていない女に
サラリと言えてしまうなんて
こっちが赤面してしまう。


本音なのか
営業トークなのか
なかなか読めない。



「また、かけてもいいですか?」

『もちろん。またいつでも
 電話してください』

「…はい」

『じゃあ今日もがんばって』

「はい、じゃあ」







――大川さんの本心。
これがハッキリわからないと
なかなか踏み込めない。

ようするに
友貴とも切れない。



よくばるな、って感じだけど
まだ大川さんだけに
的をしぼるのはコワイ。

かといって前みたいに
友貴だけを見ていくのも
なんだかチャンスを
棒にふるみたいで
きっと後悔する。




これが22、3の頃だったら
友貴とソッコー別れただろう。

こういうところで
年を感じる。

女は年を重ねるごとに
ズルがしこくなる生き物なのだ。






そろそろ準備して
外でランチ食べようかな。

家にいてもやることないし。


メイクポーチを出そうと
バッグを開けたら
昨日もらった
大川さんの名刺が目に入った。



“取締役”


口に出して読んでみる。

「とりしまりやく」



もし
大川さんと結婚したら
行く末は“社長夫人”



なんだかもう
これしかないような気がする。


今の仕事に
やりがいがあるわけじゃない。

結婚して
主婦に専念するのも
悪くないかも。



もし友貴と今結婚したら
たぶん沢木さんみたいに
生活のために共働きになる。