等心大〜tou・sin・dai〜

タクシーが走り出す。

少しの間
沈黙が流れてから
大川さんが話し出した。

「西村さん
 下の名前は何ていうんですか?」

「彩です。
 色彩の彩って字で」

「彩さんか…
 キレイな名前ですね」

「そんなこと
 初めて言われました」

「またまたぁ。
 西村さんモテるでしょう」

「まさか!
 全然ですよ〜」

「本当ですか?!
 見る目のない男ばかりだなぁ」




会話が心地いい。

そんな会話を
交わすうちに、
赤坂に到着した。


「寿司でいいですか?」

「あ、はい。
 お寿司大好きです」

「じゃあよかった」


小さいけれど
高級そうなたたずまいの
寿司屋ののれんをくぐる。


女将のような女性が
私をチラッと見ると

「あら、大川さん、
 今日はベッピンさん連れて」

と言った。



「今日は美人連れだから
 うまいとこを頼むよ」

「はいはい、
 かしこまりましたよ」



カウンターではなく
テーブル席に通された。


「遠慮なく何でも
 好きなの頼んでくださいね」

「あっはい、すみません…」



みんなはどうなのか知らないが
私はカウンターの方が好きだ。


長い付き合いの
友貴みたいな相手ならともかく

まだそこまで
親しくはない異性と
向かい合わせで
物を食べるというのは
ケッコー緊張する。



「西村さん、
 ビールでいいですか?」

「はい、お願いします」



酒にはそんなに強くないが
一杯くらい飲んだ方が
会話が弾むだろう。

それに
ここでウーロン茶とか言うと
警戒してる、と
受け止められかねない。

マイナスなイメージは
付けたくない。
本当に、私はズルイ。