等心大〜tou・sin・dai〜

見れば見るほど
いい男――。



この年齢で
ピアノ初心者ということは
趣味で始めたのだろう。


ちょうど
結婚を意識し始めた矢先に
こんな出会いがあるなんて
神様のおぼしめしかもしれない。
なんて。



「じゃあヘンデ版にします」

「そうですね、
 長く使えますしね」



いともあっさりと
会計を済ませて
彼は行ってしまった。




あーあ。
もうちょっと
話したかったなぁ。

でも今日は
外見のコンディション
最悪だしな。

やっぱ神様なんて
いるわけないか。




そのあとは
特別な出会いもなにもなく
日常の業務をこなした。



業務の間中、
結婚について、とか
さっきの男の人のこととかが
ずーっと頭ん中を回ってた。




――でも
素敵な人とまた出会ったら
私は友貴と別れるつもりなの?
変わり身、早すぎじゃない?



まぁどっちにせよ、
また出会いがあるかなんて
わからないけど。





「西村さんお疲れ〜
 もうあがっていいよ」

「はーい」

店長の声かけで
私は帰り支度をした。