等心大〜tou・sin・dai〜

「お父さんガッカリするかねー」


なにげなく私が言うと
母は驚いた顔をした。



「どうして?」

「どうして…って
 高原さんが来た時、
 息子がほしかったって」

「あぁ、あれは嘘よ」

「嘘?!」



今度は私が驚いた。

私の見る限り、
父は私との接し方がわからないように思える。

娘よりも
息子とキャッチボールをしたり、
将来の話をしたり
そんなことを夢見ているんじゃないかとボンヤリ思っていたから。



「お父さんね、彩を妊娠したとき
 まだ性別もわからないのに
 絶対女の子だーって」

「本当に?」

「えぇ、そりゃもう。
 名前もお父さんがつけたのよ」

「そうだったの?」

「絶対俺がつけるって。
 名前は嫁にいっても
 変わらないものだから、って」



父のそんな姿、想像できない。

幼い頃から
父はいつも無口で
ムスッとしていて。
そんな風に私を想っているなんて
考えたこともなかった。



「お父さんはね、
 表現することが下手なのよ」

「…そうだね」

「でも本当は
 優しい、温かいところも
 たくさんもってるのよ」



母が少女のような瞳になったので
私はそれが可愛く感じて
笑ってしまった。


「お母さんの選んだ人だもんね」

「やだもう。
 親をからかわないで」

「あはは」


二人で笑い合って
母は言った。



「彩にもまた現れるわよ」

「えっ…」

「彩と子供の人生
 まるごと抱きしめてくれる人」





その瞬間、
頭に浮かんだのは
友貴の笑顔だった。