等心大〜tou・sin・dai〜

「どうだった?順調なの?」

病院から帰ると
母は待ちきれない様子で
私を迎えてくれた。



「うん。性別もわかっちゃった」

「えぇっ、もう?どっちなの?」

「女の子だって!」

「女の子!
 なんかそんな気がしてたのよ」

「え〜?本当に〜?」



母は嬉しそうだ。

そんな母を見ていると
これでよかったんだ、って
そう思える。

そう思えることは
きっと幸せなことだ。



疲れてソファーに座ると
母も隣に座り、
私のお腹を優しくなでた。



「本当に…彩が母親に
 なるなんてねぇ」


母の表情は決して
哀しみや憐れみではなかった。

本当に本当に
温かな、
慈しみに溢れた顔だった。

そんな母を見て
鼻の奥の方がツン、として
涙が出そうになった。



きっと。
母のお腹の中に私がいた時も。

母はこんな表情で
私を慈しんで
お腹をなでたのだろう。



そんな光景を
思い浮かべてみると
幸せすぎて、泣きたくなる。



近くにいる人達からの愛情って
いつもつい見過ごしてしまう。

近すぎて、
よく見えなくて。



母の愛情も、父の愛情も、
それから友貴の愛情も。



近くにいると
遠くにいるときよりも
見えにくいもの、あるよね。


今になって気付いたけど
遅すぎだけど
気付けて、よかった。