等心大〜tou・sin・dai〜

自宅と
職場の楽器屋は
わりと近い場所にある。


ちなみに
友貴のマンションも
歩いて行ける距離なので
恵まれた環境ともいえる。



楽器はそこまで売れないが
楽譜はまぁまぁ売れるので
午後は結構忙しい。



「西村さん、
 ちょっとお疲れ?」

職場の先輩、
沢木さんが声をかけた。

「大丈夫です。
 まぁ父親とバトッちゃって」


沢木さんは美人で
28歳。独身。
そして性格もいい。多分。



「父親かぁ。
 難しいよねぇ」

「沢木さんもそう思います?!」

「思うよー
 特に結婚とかの話題になるとね」

「沢木さんも?!」



やっぱり
みんな似たような境遇なんだ。





「でも私、
 結婚することになったんだ」

「えぇぇぇっ!?」

「そんな驚かないでよ〜
 ジミ婚だし、
 仕事も続けるから」

「そうなんですか…」


がっかり。
一瞬ナカマだと思ったのに。



「まぁ西村さんはさ、
 まだ25だしアセることないよ」




――まだ25。

父には“もう25”と
今朝言われた。


まだ?
もう?
自分でもよくわからない。



結婚したいのかさえも
よくわからない。

だけど
なぜかアセッている。


「私なんてさぁ
 彼の収入じゃ生活不安だから
 仕事もやめらんないしさ」

「生活費って
 そんなにかかるんですか?」