等心大〜tou・sin・dai〜

「あ、おはよう」

父は不機嫌そうだ。


「若い女が朝帰りなんて
 みっともないぞ」


はぁ。心の中でため息。
父は朝帰りにはうるさい。

高校生じゃあるまいし。


「じゃあ今度から気をつけます」

「この前も言っただろう」


ムッ。


「もう大人なんだから
 別にいいでしょ?」

「大人って…
 おまえは嫁入り前なんだぞ?」

「わかってる」

「悪いウワサがたって
 困るのはおまえなんだぞ。
 結婚相手がみつからなかったら
 どうするつもりなんだ」



いつもこうだ。

高校生の時は
“まだ子供のくせに”
社会人になったら
“嫁入り前だから”

いつになったら
私を
自由にしてくれるんだろう。



「私だって25なんだから
 相手くらいいるわよ」

つい、
言ってしまった。



「あら、いるの?!」

案の定、
母がくいついてきた。


「なんとなく気付いてはいたけど
 やっぱりいたのねぇ。
 今度連れてらっしゃいよ」



はぁ、ウザイ。

こうなるから
今まで言わなかったのに。


「別にまだ結婚とかはないから」

そう言うと
今度は父が

「マジメな付き合いじゃ
ないのか!」

と声を荒げた。



「そうじゃなくて
 まだ25だし、考えられないの」

「もう25だろうが。
 先のない相手と付き合って
 いったいどうするんだ」




“先のない相手”

たしかに結婚について
友貴と話したことはないけど
かるく傷つく。




「まぁまぁ朝ですし
 続きはまたにしましょ」

母がそう言って
父の背を押した。

「いってらっしゃい」

「…あぁ…」





やっと行った。
ホッと胸をなでおろした。


「彩も早く着替えて
 いってらっしゃい」


なんだかイラだって
返事もせず
自分の部屋に向かった。


急いで服を選び
着替えて
母に声もかけず外に出た。