友貴はわかった、とだけ言って
私は合鍵を置いて
部屋を後にした。



私はもう
覚悟を決めたのだ。



一人で産んで、一人で育てる。



両親が反対したら
きっと家を出なきゃならないだろう。

そうしたら、
大川さんのところに行けばいい。

あなたの子だ、と言えば
出産するまでの生活くらい
面倒をみてくれるだろう。



私はどんなことでもする。
この子を守るために。
そう、決めたのだ。





見慣れた我が家の玄関を前に
私は目を閉じて
深く、深く息を吸いこんだ。



私が産まれて、育った家。


父は怒るだろう。
母は泣くかもしれない。

それでも
私の気持ちは、変わらない。



「ただいま」

ドアを開けると
母がいつもの笑顔で
出迎えてくれた。



「おかえりなさい。
 ご飯は?先にお風呂入る?」

「あー…お父さんは?」

「今ちょうどご飯食べてるわよ」

「じゃあ私もご飯にする」

「あら、めずらしい」



パタパタと
母はキッチンに入っていき
料理を温め始めた。

夕食のにおいは幸せのにおいだ。
幼い頃の記憶と直結している。



父と食事をとるのも
これで最後になるかもしれない。

そんな想いが頭をよぎり
少し物悲しくなった。

「ただいま」

「あぁ」


父は相変わらず
私の顔も見ずに
箸を動かしながら返事をした。



「はい、どうぞ」

母が私の分の料理を
テーブルに並べる。
すぐに戻ろうとする母を
私は呼び止めた。