等心大〜tou・sin・dai〜

翌日も
その翌日も
いつもと変わらず仕事へ行き
いつもと同じように過ごした。

ただ違うのは
友貴がいない、こと。


毎日まっすぐ家に帰る私に
父も母も、何も聞かなかった。




友貴からの連絡はない。




もう10日が過ぎようとしていた。

赤ちゃんのエコー写真は
友貴が持ったままだ。

残酷なことをした、と思う。
このまま連絡なんて無くてあたりまえなのだ。





「西村さーん
 あがっていいよー」

「はーい」


今日も私は
まっすぐに家に帰る。

身支度をして職場を出ると
後ろから呼びとめられた気がした。



幻聴まで聞こえるなんて
よっぽど寂しい奴なんだな、私。





「…彩っ」




今度は
ハッキリと聞こえた。



気のせいなんかじゃない。
空耳じゃない。
その声は――




振り向くと
息を切らせて走ってくる友貴が見えた。



友貴。
愛しい姿。
声。
息遣い。




涙が溢れて
世界が水の中のように映る。

私、友貴に会いたかった。
友貴の声が聞きたかった。



友貴は私の目の前までくると
弾んだ息を整えてから
しっかりと、こう言った。



「結婚、しよう」




聞き間違い?
違う。
ハッキリと、そう聞こえた。



「…どうして?」

「彩のことが好きだ。
 彩の子は俺の子だ。
 二人を受け入れる自信ある」



友貴の目は
もう傷ついた瞳じゃなかった。
しっかりと前を見据えている目だった。