「かーちゃんっ!」

「んあ?」


心太が焦ったような顔をして母親に駆け寄る。
彼女はそれに振り返り、眉をピクリと動かした。


「に、にーちゃんがっ!」

「……友希がどうしたって?」


さらに眉を寄せ凄む母に一瞬彼はひるんだがバッと手を掴み、てってっと小走りで母親を導きながら口を開く。


「と、とにかく来てっ!」


本当ならば行く前に問いつめたかったが、仕方なく彼女はされるがままついて行った。

階段を上がり友希の部屋に辿り着くと、ガチャッとノックなしに扉を開ける心太。


「にーちゃんっ!」


彼は母親の手を離し、友希の傍に寄る。そして彼の背中をさすった。


「うぅ…」


友希の白いTシャツには、赤が飛び散っていた。


「…」


母はそれから無言で目を反らし、近くの小さなゴミ箱を覗き込む。それにちらりとこちらを窺っていたふたりは慌てて止めようとしたが時既に遅し。

そのゴミ箱の中にはひとつ、缶が入っていた。


『美味しいフレッシュッ!トマトジュースっ!』


そう書かれた缶を冷めた眼差しで見つめると、今度は友希に向き直る。