「……そうだな。これは…」


ちらり、と亜子に目を向け───否、狙いを鋭く定め、にこりと鳥肌がたつような笑顔を浮かべる。

その瞬間、女子はヒッと短い悲鳴を上げ、男子はサッと顔を青ざめさせた。


「峯、この問題解け」


しかし、指名された当の本人は笹倉が黒いものを全身に纏っていようが関係ないとでもいうように夢の中である。


「……」


にやり、その様子を見て悪魔のような本来の彼の笑みを顔に張り付け、クラス全体を視界に映す。


「なぁ」


笹倉は目を細めて彼らに声をかける。すると周りはビクビクしながらも顔を上げ、彼を見つめた。


「どう考えても起きない峯が悪いと思わないか?」


声はひどく優しげだが、目は決して笑っておらず、早く頷けよと訴えている。

それが伝わり、亜子を除いた生徒が素早く首を上下に振った。


「だよな」


その様子に愉しそうな声を出した笹倉は次の瞬間、居眠り少女に向けて目にも留まらぬ早さでチョークを投げまくる。

ガッガッガッと何かにぶつかる凄い音が静まりかえった教室に響いた。白いチョークたちは無惨にも亜子の頭に追突すると粉々に砕け散る。