「は…? あ、えーっと…わんもあぷりーず?」


たかが、という部分に本来ならば腹をたてる場面である。しかし今はそれどころではない。

亜子はテンパりながらも聞き返す。すると舌打ちとともに返ってきた。


「……チッ、古典とかの方が得意だっつってんだよ。何度も言わせんなめんどくせぇ」

「…」


(古典とかの方が得意…?)


心底嫌そうな顔で頭を掻く彼に数秒間間をおいて目をパチクリさせた亜子は。


「はぁあああっ!!!??」


叫びました。


「うっせーな、耳壊れんだろ」

「いやいやいや。そんなことどうでもいいから」

「おい」

「アンタ何で数学教師になったんだよっ!」


(本当何でだよっ!国語の教師になればよかったじゃん、得意ならっ!)


彼女の心の内を読みとったように笹倉は息を吐くと、また爆弾発言を投下した。


「男は文系より、理系の教師やってた方がモテんだよ」

「……」

「……」

「………、だから数学教師?」

「おう」


さらっと頷く笹倉に亜子は初めて本気で人を軽蔑した。


「……先生、最低」

「何とでも言え。教師に限らず公務員になるヤツの理由なんかな、大抵欲望にまみれてんだよ」

「…まぁ、そういう人も中にはいるから否定しないけど、でもモテたいだとかそんなくだらない理由でなる人は笹倉先生だけだと思う」


至極真面目に返すと、チッと舌打ちをしてガシガシと亜子の頭を鷲掴みする勢いで撫でる。


「いたたたっ!」

「生意気言ってんじゃねぇよ、あ? 峯のくせに」

「あたしのくせにってどういうこと…っ! 痛い痛いっ!」