一週間なんてあっという間だった。

毎日の楽しみだったナナの姿がそこに無い。
それがどうにも強い違和感となってしまう。

不意に追うあの後ろ姿が…どこにもない。

営業課のデータサポートという地位。

ひとりで営業課の奴ら18人のデータをバックアップする。

頭が良くてパソコンスキルの高いナナには打って付けの仕事だと思った。

だから、移動も泣く泣く了承したのだ。


ことの発端は俺の発言だった。

部長に「早瀬くんと結婚するの?」と聞かれたので「はい。」と、答えたのだ。


夫婦で同じ部所に所属。


前例が無いという。
上が話し合って、やはり周りに対してけじめをつけてもらいたいという結果になったらしい。


じゃあ、俺が営業に移動します、というとそれは困る、データ課は君が立ち上げからずっと率いてきた課だから、君は残留、早瀬を移動する、と。

仕方ないのは頭ではわかっている。



わかってはいるが、納得し難いものがある。


ただ、部長が上に掛け合い、彼女のパソコンスキルの高さを活かせるようにとの話が通り、わざわざ彼女のためにデータサポート係というものを新しく作ってくれたのだ。


ただ…営業には軽い男が多い。


心配は尽きない。


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営業に移動してもうすぐ1週間が経過する。


わからないことは沢渡先輩が色々教えてくれるので、今のところトラブルはない。


「早瀬さん、おはよー。」


朝早いあたしの次に出社してくる、今年の新入社員・高木 浩輔くん。

ま、一言で言えば『チャラ男』。

挨拶もちゃんとするし、営業成績も新入社員にしてはかなり良い方。


ただし、その見た目がね…。

今時なのかな。


「今日も早いよね〜。つかさ、今日週末じゃん、仕事終わったらメシ食いに行こうよー!」


話し方もこんな感じ。

「あのねぇ、昨日も言ったけど彼氏がいるの、あたし。だから、ムリ。彼からおこられちゃうからダメなの。」


どれだけ断ってもへこたれない。

はぁ、たった2歳しか違わないのにその若さについていけないよ…。

「おはよ、早瀬。あ、お前も居たのか、高木。」
「いるッスよ〜、ひどいなぁ、沢渡さんは〜。」


彩のいうとこイケメンNO1の沢渡さん。

「あ、早瀬、杏が連絡してくれって言ってたよ。あいつ携帯無くしてさ、連絡先がパアになったんだよ。
よかったら早めに連絡いれといてやって。」


「誰なんスかー?杏って。」
「俺の女だよ。」


ひぇー、沢渡さん彼女いるんスかー!とか言いながら、高木くんは毎日の日課になっているみんなのデスク掃除を始めた。

彼のすごいところは、物凄いマシンガントークにも関わらず、その他の事を同時進行させること。

しかし、朝からよく喋るなー。

「沢渡さん、杏ちゃんにはメールしときますね。」


向こうのデスクでおう、頼む、と返事が返ってきた。


次々と社員が出社してくる。

週末金曜日。


今日も一日が始まる。