俺は「鼻歌、聞こえてるけど?」と教えてあげようとも思ったが、
あまりにも水野の歌声が心地よかったので、そのままにしておいた。










───今日は、いい1日だな。


俺の気分は爽快で。


その日の放課後は、友達とファミレスに寄って、家に帰ったのは10時半ごろ。




あー、疲れた……。




「…………ただいま」


俺がドアをガチャっと開けて、家に入った瞬間。




「あら、勇也!いいところに帰ってきたわねっ?♪」




まるで玄関で待ち構えていたかのように、立っていたのは母さん。




……なんか、嫌な予感。


「………何。」


「ふふっ、そーんな嫌そうな顔しないのっ!はい、お金!!」



母さんはそう言って、俺に千円札を握らせた。




俺は手に握らされた千円札と母さんの顔を交互に見る。


母さんは俺の顔を見てニコっと笑った。









「コンビニでプリン買ってきてちょうだい。」

「はぁ?」



──何を言い出すのかと思えば。





「今日じゃなくてもいだろ。つーか、プリンくらい自分で買いに行けよ。」





呆れた。

俺は靴を脱いで、玄関を上がろうとした、が。




「ダメよっ!!!」


目の前に立ちふさがる、いい歳したオバサン。





「どいて。邪魔。入れないから。」


「勇也が買ってきてくれたら入らせてあげる。」





──めんどくせぇ。



「はぁ………。わかったから。近くのコンビニでいい?」







「それがぁ~、あそこのコンビニじゃ売ってないのよね~。
あなたの学校の近くのコンビニに行ってちょうだい?」


「学校の近くって……、電車乗らないとダメなんだけど。」




何で、そんな遠い所まで。




「でもそこにしかあのプリンは売ってないの!!!
じゃ、よろしくね??」




そう言って、俺は強制的に家を追い出された。






「………。」


────あのババア……、悪魔だ。