……ねぇ、勇也。

今、何を考えてるの?

何を思って、







「おでこ…か」





──そんな辛そうな瞳で、私を見るの…?




「……、」



声を出そうとしても、喉が張り付いて喋れない。



別れてから、こうやって向かい合ったのは初めてかもしれない。

目が合ったのだって、喋ったのだって、
別れたあとは1回もなかった。





──私たちが決めたんだ。

だったら、そんな思いも引きずってちゃ意味がない。



そう、ずっと心の中で言っていた。




それに、勇也だってもう他の子を好きになっているかもしれない。



……そう思ってた。






──だけど。



…そんな瞳で見られると、勘違いするよ?




「……ゆ、」





勇也。と、やっとのことで呼ぼうとした時。






勇也はパッと目線を下に落として、その手をどけた。






そして、












「…じゃあ、俺は帰るから。これからは気をつけろよ。



──“水野”。」









「……っ、」






──あぁ…。イタイ。







勇也がそう言いながら立ち上がり、落ちていた私の鞄を差し出す。






「あ…ありがとう。
──“広瀬くん”。」




声が震えているのが気付かれてしまいそう。





私は笑顔を顔に貼り付けて、その鞄を受け取った。





「…ん。じゃあな」

「うん、ばいばい」


私はそう言って小さくなる勇也の背中を見送った。

















「……っう、……っ」




──誰もいなくなった廊下で一人涙を流す私。






…本当に、辛い。



ねぇ、もう呼んでくれないの…?


あの時みたいに。





“由莉”って…──。









…分かってる。



そんなこと言うのはおかしいって。


勇也は、もう私なんて忘れて、幸せになろうとしてるんだって。


私が一方的に、期待してるだけなんだって。










でも…、でも…──。










「もう1回…っ、由莉って言ってよ…っ」






ポタポタ、と床に涙が落ちていく。




辺りには誰もいない。

何もない。



だけど、私はどうしようもない思いを見つけてしまった。

















「私…、私っ、まだ勇也が好きなんだよ……!」






まだ冬の寒い廊下で、私の声だけが廊下に響いていた。