そんな時、由莉のさっきの顔を思い出した。



──…辛そうだった顔。



こんな自分の感情にだけ任して、由莉にキスしていいのか。


俺は…、由莉が嫌がってることはしたくない。



「……っは、」

「………本当、ごめん」




俺は由莉から離れると、顔を逸らして謝った。




「…だ、大丈夫だよ……」



そう言って、黙り込んでしまう由莉。




ぎゅっとスカートを握る手には力が入っていて。

力の入っている肩。



…やっぱり怖かったんだ。





俺は由莉の向かいの席に座った。




そして外を見て、小さくため息をつく。





…あぁ、もうどうすればいいんだ。

俺は、最低だ。


せっかくのデートをさっきの一瞬で台無しにしてしまった。







「勇也…?」




俺も黙ってしまったからか、
俺のことが怖いはずなのに、話しかけてくる由莉。






だけど、「…ん。」と、俺はそう短く返事する。




…お願いだから、今は、話しかけないで。


俺はひどいやつなんだから。



由莉に優しくできる自信がない。




「勇也」

「…ごめん。」

「ねぇ…」




俺が突き放しているのに、話しかけるのをやめない由莉。



それどころか、ゆっくりと立ち上がって、
俺の所まで来る。







由莉の顔を見るのが怖い俺は、ずっと由莉と目を合わせない。



「勇也」

「……何?」

「ゆーうーやっ」

「〜…だから、な…」



何?と言おうと顔を上げた時。







───……


俺の唇に訪れた、柔らかい感触。


それは一瞬の出来事で、すぐに消えた。







俺はびっくりして目を大きく見開く。


……は、何これ。


由莉が……、俺にキスした?


──何で?





「あ、あのねっ!」



そうやって、林檎みたいに顔を真っ赤にしながら話出した由莉。




「勇也…何だが勘違いしてるんじゃないかと思って…。
ほら、ずっと謝ってたし!」


「え……?」



「けど、私はそのっ、嫌じゃなかった…わけで…。
むしろ…っ、嬉しかった、から……」






そう恥ずかしそうに言う由莉が、
とても大切に思えて。





──何で由莉は、そんなに優しいわけ?




「…それ、本当?」





俺がそう聞くと、由莉は首を大きく振って。



「うん!いきなりだったから、ちょっとびっくりしただけ…」






──…あぁ、もう本当好き。



由莉を見てると、そんな感情が溢れてきて胸が苦しくなる。








「由莉………抱きしめていい?」



俺は気付けばそんな事を口にしていた。


由莉は一瞬 びっくりしたように目を見開くと、
恥ずかしそうに微笑んで「いいよ」と言った。



そして、俺は由莉に手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめた。





俺が背中に手を回すと、由莉もその細い腕を俺の背中に回してくる。




──…由莉。

もう、怖がらすことはしないから。





俺はふと力を弱めて、由莉から少し離れて。





「…いきなりして、ごめん」

「…うん」




そう言うと、2人は見つめあって、またゆっくりと近づく距離。



由莉が静かに目を瞑ったのを見て、
俺も静かに瞼を閉じた。










──…冬の始めの夜、とある観覧車の中で。




2人は美しい夜景に見つめられながら、
優しいキスをして、幸せに包まれた──。















……その幸せが、いつかは苦しい思い出となることも知らずに。





*勇也side END*