ようやく来たと思ったのに、走り去ってしまった水野。




「……は?」

「水野さん…泣いてなかった…?」



神崎にもそんな水野の顔が見えたのか、
とても慌てたような顔をしている。




…うん。そう。

さっきから、俺もその事が気になって仕方ない。


「あ……、もしかして…」



と、神埼は何か思いついたかのように言った。


「何?」

何か、わかったのか…?


俺がそう言うと、神埼は俺をチラッと見てから、言いづらそうに口を開いた。



「……勘違い…しちゃったのかも…。」

「勘違い?」

「そう。…私たちが、付き合ってる…とか」

「え?」




何でそんなこと…。




「それで何で水野が泣くわけ?」

「それは多分……、いや。私からは言えない」

「何それ?」



神埼は知ってて、俺には知らないことがあるの?





「とにかく、広瀬くんは行かないとっ…!」



その神崎の一言でハッとなる。




そうだ。

今は考えるよりも行動しないと。


水野 泣いて行っちゃったし。






「ごめん…!俺 行くわ」




自分の鞄と、水野が置いたままの鞄を持って、追いかけるように廊下へ出る。





「──広瀬くんっ!」

「ん?」




教室を出る寸前で、神埼に呼ばれ俺は振り返る。






すると、神埼は何かを言いそうになったけど、その言葉を飲み込んで。





「……頑張ってね!!!」



そう、俺にニコッと笑った。





俺はその笑顔に一瞬戸惑う。


神埼──……。



…だけど、これは神埼の精一杯の気遣いなんだろう。


俺は神崎の気持ちを無駄にはしたくない。





「…ありがとう」



俺は、そう言って教室をあとにした。













───……



「好き………っ」



神埼が俺のために涙を流していたなんて、
この先、知ることはないだろう。